「 エールが…、ディセンダーですって?! 」



やっとホールの中に入ると、リフィルがそう叫ぶように私の後ろにしがみ付いているエールを見た。震えるのも泣くのも全部伝わって、ただ手をつないでいることしかできないこの感覚がまどろっこしく感じる。いっその事抱きしめてしまえれば。でも、抱きしめたところでこの子の思っている事なんて何一つわからないのだからただの気休めにしかならないのだと私の中で、本音が叫ぶ



「 はい…、セルシウスが言うからには。ディセンダーの証である光が、あの方にはあるそうです 」



気持ちが矛盾して、悲しいを通り越した切なさが血液を通って駆け巡る。



「 わたし達には見えない光ですが… 」



アニーの言葉に、ふっと背中が軽くなるのを感じた。つなぎっぱなしの手は妙に震えていて、振り返るとエールは自分の腕に爪を立てて泣きながら小さな声で、嗚咽を漏らす。



「 でも、ディセンダーだからといってあの子に何か特別な事が出来るとは、とても… 」



怯えたようなそのままの声で



「 いや、だ 」



呟く。何度も何度も。
自分自身を拒絶するように何度も『嫌だ』と『やだ』と、



「 エール 」

「 やだ!いやだよ、ディセンダーってなに!わた、わたしは、 」

「 エール、落ち着いて 」



再び紅くなった皮膚に爪を立てようとするその手をつかむと、その目が歪んだ。不快感丸出しのその目にはしっかりと私が映っていて。その目の縁からぼろぼろと大きな透明を生み出しながら、私の腕にも爪を立てて、傷をつける。紅い痕にしながら、熱にしてしまいながら、全てを痛みにして



「 わたしは、わたしには、 」

「 …っ 」

「 こうやって傷つけるしか出来ないのに!なんで!わたしは、ディセンダーじゃない! 」



私は君が逃げてしまいたいというのなら、いつでもその手をとって逃げてしまうというのに。それなのに、否定をするだけで、逃げたいだなんて言わないから。私はそれをそのまま受け止めてあげる事しか出来なくて、爪を立ててくる指に抵抗もできなくて。

腕に赤い液体が浮かんでくるのをみてホール内がざわつき始める



「 お、おねえちゃ、 」

「 …大丈夫だよ、この程度じゃ 」

「 …や、だ 」



つないでいた指先が、



「 嫌だ、お姉ちゃん、き、傷、あ、ど、どう、し、て 」

「 エール 」

「 うああああああああああああああああああああああああ!!! 」

「 私は、大丈夫だから 」

「 ………うそ、つき 」



ほどけていくのが、確かにわかった。
お腹を強く押されて揺らいだもの、泣きながら走っていってしまうのを見るだけで追いかけることが出来なかったのも全部、全部。



( 思い出しても気持ち悪くなるような善意があの子を傷つけた )
( 自分が傷を負えばいいと思っていたから )
( 私が痛いと言わなかったから。あの子が、傷ついてしまった )

11/0218.




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