「 よくここまで来てくれた『ディセンダー』。 」
そう言いながら私の妹に笑みを浮かべたセルシウスにエールは瞬きをしてから後ろを見る。何もないからっぽを見た後に、ぐるん。と凄い勢いでセルシウスを睨むように見て、たった一人首をかしげた。確実に理解をしていないんだろう。理解どころの問題じゃなくて、もしかしたら本人はそれを否定したくてどうしようもないのかもしれない。
「 アニー、ご苦労だったな 」
「 はい 」
自分の仕事を果たしたという感覚で返事をしたアニーは、すぐにはっとしたように顔を上げたけれどエールはただ呆然と立ち尽くしたままで、ゆっくりと持っていた武器を雪の上へと手放した
「 …はい!?待って下さい。えっ…と、今何を…? 」
目を回しそうな勢いでアニーの頭の中がぐるぐると整理を始めたところで私は、やっとその場から動こうという気持ちになる。なんて、今さら。だなんてあざ笑ってしまいそうになるくらいそのセルシウスの視線が怖かった。怖くて、怖くて、動けなかった
「 エールがディセンダー!? 」
嘘、とわずかに呟いた声にエールの細い肩が揺れる
ただ小さく動いたその唇がなんていったのかはわからない。だけど、セルシウスは懐かしむように、それでもはっきりと縦に頷く
「 ディセンダー。精霊の世界まで届く光をまとう者。私はその輝きを知っている 」
たった一人、会話の中にそのディセンダーを置いたまま言葉だけが先走る。置いていかれたまま、口を動かさずに静かに閉じてしゃがみ込んで自分の武器を抱きしめて、独りぼっちで私のところにくるわけでもなく。ひとりで、泣きそうな顔を耐えている
「 おーい!吹雪いて来そうだよ!早く戻らないと! 」
「 そうですね…。ここは魔物も多いですし。話はみんなと合流してからにしましょう 」
「 ああ。なるべく早く戻ろう 」
雪の中を歩き出した4人とは別の向きへと足を伸ばすと、エールの肩がビクンッと大きく揺れた。それでも私は君をこんなところにおいて置けるようなずぶとい神経はしていないから手を差し出す
「 エール、帰ろう 」
「 やだ 」
「 雪に埋まっちゃうよ 」
「 やだ…! 」
「 エール 」
「 いやだ! 」
しゃがみ込んで自分の武器を抱きしめたままうずくまる。此処から移動しない、と。絶対に動かないって体で、態度で表すから。私も同じようにしゃがみ込んで、ちらほらと降り始めた白い羽根のようなものを眺めたまま
「 此処から動かないなら、私も此処にいる 」
一言だけ呟くと隣でぼた。と大きな音と雪が溶けるが聞こえた
「 だけど、皆も待ってるよ 」
「 …うん 」
「 エールを、皆が待ってるんだよ 」
「 …うん 」
「 私と一緒に、帰ろう? 」
何処に。とは言わなかった。言わなくても君の帰る場所はあの暖かい居場所で、優しいところだから。勢いで『私と』なんて言ってしまったけれど、正しいようで間違っている不思議な言葉になってしまった。でも、今はこれが一番いいと思ってしまっているのも確かで
その手が私の手をとるのを待った( 何も言わずに手を出して待つ )
( 君が握るまで )
( 君が、少し落ち着くまで )
( このまま )
11/0217.
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