マフラーから鼻の先だけ出してみるとヒンヤリとした空気が鼻先から浸透するように頭へと進んでくる。冷たいとか寒いとかそういうのだけじゃなんだか足りないような気がするその空気に息を吐くと白く広がって消えていった。その息よりも白い景色が広がっていく今、なんだかこの世界と繋がっているのかどうなのかわからなくなる錯覚に、また身体から必要のない空気を吐き出す
「 ため息つきすぎじゃねェの? 」
シンシンと痛む指先をコートのポケットに入れてから振り返るとスパーダが寒そうにすこしだけ首を縮めるようにして私を見ていた。
「 そう言ってくれるスパーダは、何しにきたのかな 」
「 雪を見にきてンだよ 」
「 ふーん…雪を、ねぇ 」
雪を見るんだったらもっと厚着をすればいいのに、いつもの服装で出てきたスパーダになんていえば良いのかわからなくて、私は視線を戻して白い景色に変わっていくのを見ていると後ろの方から壁に寄りかかるような音。振りかえる気も起きなくて寒い空気が駆け抜けていくのをぼうっと眺める
「 ルカが心配、とかじゃなくて? 」
「 …誰が心配なんかするかよ。アイツのことを心配してンのは親の方だっつーの 」
「 はいはい。そうだね、心配だねー 」
「 ちょ、話を聞け! 」
「 じゃあ、腹割って話せ 」
「 お前はたまに冷てェ声出すよな 」
「 うん 」
人間暖かいだけじゃ生きていけないからねえ、といてみると後ろからのんびりとしたどうでも良さそうな返事が聞こえて私は、小さく笑みを浮かべる
「 照れくさいんだ? 」
「 …んなわけねーだろ!! 」
「 あはは、大丈夫だって。ルカには言わない 」
雪をはたきながら振り返ると、スパーダがはっとしたように帽子を深く被る。多分照れてるんだろうなあ。耳は寒さかさっきの話のせいか微妙に赤くなってて、ポケットに入れっぱなしのグローブをそっと耳を包んであげるとスパーダが視線を上げた
「 一応言っておくけどな 」
「 ん? 」
「 お前の事だって心配してんだよ 」
「 …君は、優しいからね 」
優しいから、そんな薄着で出てきて私に声をかけるんだ。風邪でも引いたらなんて考えないんだろうか。看病だって容易く出来る訳ではないのに。目をそらしたままのその顔をずっと見ているわけには行かなくて、彼の耳からグローブをはずすと雪が私と彼の間を通り抜ける。冷たい白が、落ちて
「 浅葱、 」
「 なに? 」
「 お前が消えたりしねェよな 」
もう一度白が間を落ちていく
「 どうして、 」
もしかして。と嫌な事がよぎる。
もう、記憶が?いや、そんなわけない。だって私はこの間みたいに透明になってないんだから記憶なんか関係ない。ただ、スパーダの勘がいいだけなんだ。そう言い聞かせて
「 どうしてそう思うんだよ?失礼だよ、私に 」
「 そう、か。そうだよな。お前が消えるワケねェか 」
「 うん。消えるわけないよ 」
「 死んでもしななさそうな感じするし、気のせいだな 」
「 流石に殺されたら死にます 」
初めて此処にきたときみたいにぎこちなく私は笑みを浮かべた。
ただの、いつもの調子のおしゃべりだったのに
「 私がいなくなったら、寂しい? 」
思わずそう聞いてしまったから
君が悲しそうに、笑うんだ( その顔が見ていられなくて、 )
( 嘘だよ、バーカ )
( なんてまた嘘を重ねて、力強く笑ってみせた )
11/0214.
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