昨日の今日で流石にお散歩に行く事は出来なくて甲板の縁に腰掛けて海に足を投げ出すと飛び魚みたいな魚が跳ねて、海に星が反射していてきれいなのがもっと綺麗に見えて。足の親指をそのまま海に伸ばすと海に映っている月が揺れて歪んだ



「 何をしているんだ 」



親指の先で海をすくうと水しぶきがキラキラして、その声と甲板に座る音だけが聞こえた。どうせ私がまた勝手に船から消えないかの心配をしてくれたんだろう。どうせってなんだか悪く聞こえるけれど、別に心配される事が嫌な訳じゃなくて、そこまで知って余計に親身になってくれたような気がして、少しくすぐったくて、心があったかい



「 海を見てたんだよ 」

「 …海、か 」

「 うん。深くて綺麗で色んな生き物が生きているその海ってある意味で世界みたいだから 」



地球だって遠くから見れば蒼かった。蒼くて緑があって、白い雲で隠れた場所だってあって。それでも深くて広い。色んな生き物がいて、色んな生活があって色んな集団がいるのは何にも変わらなくて、皆、悪いをもっていて、当然良いをもって生きてた。海も今いる世界も地球に、考えれば考えるほど、何も変わらない



「 それで?クラトスは見張り?私が勝手に散歩に行かないようにって 」

「 …何故、そう思う 」

「 どうやら私は心配をかけすぎたみたいだからね。それに私は此処から離れてしまうと行く場所が無いから留まるしか選択肢がないもの 」

「 そうやって始めから決めてしまって、お前は辛くはないか 」

「 決めなきゃずっと迷うから。ずっと後悔してしまうのは、嫌なんだよ 」



自分が逃げないように、自分で縛り付けた。逃げるのは良くないし、逃げる事でエールに卑怯を覚えては欲しくないから私は無茶も無理もした。それは自分のためで、あの子に見て欲しい姿で。それでも、たまに逃げたくなる。今だって海に飛び込んでしまいたいくらいに逃げたくなっているから



「 クラトス、 」

「 どうした 」

「 手、貸して 」



甲板に座っているクラトスの手が甲板の縁へと伸ばされて、その大きな手を戸惑いながら握る。4000年も救世主の事を見守り続けた温かい手を握ると、戸惑うように握り返してきたその手は少し堅くて、ちょっとだけ安心する



「 …浅葱? 」

「 久々に、誰かの手を握ったよ 」

「 そうか 」

「 最近エールの手を握ってあげる事も、あまりなかったから。少し寂しくてさ 」

「 姉離れの時期かもしれないな 」

「 うわ、嫌な事言わないでくれよ 」



地味に傷つく事いいやがって、クラトスめ。アレだけ可愛い可愛いと育ててきた妹が私の手を離れて自立してしまうなんてあまり考えたくなかったのに。いつもいつも、あの子に接する時に私がどれだけそれを考えていたか。いつか、いつか私の事をお姉ちゃんって呼ばなくなったら、なんて考えて寂しくだって思うのに



「 だが、浅葱の事だ。それも考えてはいたんだろう? 」

「 …頭のどこかでは思ってるよ 」

「 もし、その時がきたらどうするつもりなんだ 」



もしもの話だけど、それはあまりにも本当すぎるよ
あの子が、あの子が自分の意思で私から離れると言ったら、そう行動にしたら



「 喜んで泣いて、悲しんで笑う事にするよ 」

「 だからって今から泣くつもりか 」

「 だって、寂しいじゃない 」



振り向かないクラトスに私は手を強く握る。考えただけでも悲しくて、寂しい。それでも自立をする事は私が正しい育て方をしてきたことの証拠だから嬉しくて喜ぶのは当たり前で。きっと本当。本当でも、それの時に上手く笑えないんだろうけど



「 ずっと、ずっと一緒にいたんだから 」

「 …ああ 」

「 急に離れてしまったら、寂しいよ 」



いつもお姉ちゃんって私の事を呼んでついてきてくれるあの子がきてくれなくなる日があるとしたらそれは複雑すぎて感情がうまく働いてくれないくらい、ぐるぐる嫌な事を考えてしまうんだろう。



( ただ、手を繋いだままで私は呟いた )
( 何度も、寂しいを )
( ずっと、ずっと )

11/0212.




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