ガイの背中を追いかけるように歩くと薬草がどんどん渡されていく。籠いっぱいの薬草。ガイが歩くたびにどんどん増えていく緑の山に私はそれを抱える係りになっていた。むしろ抱えないと仕事がない。草刈鎌を危ないからと気を使ってくれているせいか本当に荷物もちしかないのになんで仕事に誘ってくれたのか疑問に思いつつ私はその背中に声をかけた



「 お仕事って薬草を取りにくる事だったんだね 」

「 ああ。負の影響で傷ついた人達にとって必要物資だからね。あちこちでなくなっているらしいんだ 」

「 そう、なんだ 」

「 浅葱? 」



ゲーデが生まれて欲しかったのは私自身の願いだし、なによりも世界樹が傷つかなくちゃいけなかった。話を変えるわけにもいかなくて、私はそれを見ていただけ。そのせいで、他の人が傷ついてしまっているのも事実で。ごめんなさいじゃ足りないほど、謝罪したくなる



「 身体の調子がよくないのか? 」

「 ううん。そういうわけじゃないけど、人が傷つくのは心が痛くて 」

「 …君は、特にそうかもしれないな 」



そう、悲しげにガイが笑った。苦笑でもなく、ただ悲しそうにそれでも心配させないようにと強がるような笑みは見ているだけで痛くて、胸の奥がズキズキして、苦しい



「 浅葱は優しいから 」

「 …ガイ 」

「 だから君は、俺達に嘘をついたんだろう? 」



嘘をつかれた事に傷ついたのか昨日の、いや明け方の私の姿で傷がついたのかわからない。それでも痛々しそうに笑みを、精一杯の優しさを私へとむけてくるその姿は、不自然なほど優しすぎて、この仕事に来た意味や、誘われた意味を不意に考えてしまう。このことを聞くために彼は私を呼んだんだろうか、って



「 記憶喪失だって言えば、誰も追求してこないと思ったんだよ 」

「 …そう、か 」

「 誰かに本当を話したら、皆は優しいから必死になってくれるのも全部、全部わかってた 」



それでも、皆を必死にさせたくなくて。私なんかのために必死になってくれるのは、嫌で。胸が痛くなるのがわかっていたから、ずっと記憶喪失だって言った。嘘の記憶喪失は辛い事もいっぱいあったけれど。どうしてか辛くても居心地がよかったんだ



「 私はさ、その流れのままに甘えてしまうのが怖かったんだよ 」

「 怖い? 」

「 優しいって一番怖いんだ。本当か嘘かわからなくなる最低な自分がいて、それが一番嫌いで嫌なんだ 」

「 浅葱、 」

「 優しいが一番奥が見えないんだよ 」



だから、嘘をついた。
それが自分のためでもあったし、自分に誰かが踏み入らなくて住む空間になるから。



「 だから執着しないようにしてるつもりなんだけどなあ 」

「 一人もかい? 」

「 …エールには、あの子には執着してしまったかもしれない 」

「 エール、か 」



始めから執着した唯一。助けてくれたカノンノじゃなくて、私の事を本物じゃないとわかっていながらお姉ちゃんと呼んでくれるあの子に私は少なからずとも執着しているのかもしれない。



「 それじゃあ、君は誰にも頼れないじゃないか 」

「 …頼れなくて、いいんだもの 」

「 一度くらい、甘えてみるのもいいと思うぞ? 」

「 甘えてしまったら、 」



一度でも甘えてしまえば、沢山我侭を言ってしまう。沢山泣いてしまうのもわかっているから、甘えないんだ。そう言ったらガイは甘ったるくて優しい言葉を投げかけてくれるのを知っている。だって、彼は本当に優しいから。



「 やっぱり、なんでもないでーす 」

「 え? 」

「 次行こう!ありったけの薬草を困っている人に届けないと! 」

「 あ、ああ、そうだな 」




( そうして彼の背中を押すと動き出した )
( 私の腕の中の籠を強引に奪い取る )
( そろそろ重いだろうからって、気を使って )
( 気を使いすぎだ馬鹿、妊婦じゃないんだぞと言えずに手ぶらになってしまった )

11/0211.




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