ジェイドに足を踏まれて痛いのをこらえながら何とか食堂まで走ってきてすぐにゼロスの朝ごはんを作り始めたんだけれども予想をしていた通りにずっと見てくるので先手を打って兎マスクを装備して調理開始をしたのはよかったんだけれども予想外の事に走りながらの装着って兎マスクの首元が苦しいというか多分変な方向を向いてるんじゃないのかな、これ!



「 大分待たせたんだったらごめん、ゼロス 」

「 全然待ってないから気にしなくて良いぜ? 」

「 それはありがたいです 」



トントントン、と手元が音を立てるのを静かにゼロスが聞きながらテーブルを人差し指で同じくらいの音で刻む。同じ音が響く食堂の中でたった二人。あんまり気にしないけれど、無言というのもなんだかやりにくいし何か話題は、えーと、話題話題



「 浅葱ちゃんってさ 」

「 んー? 」

「 俺様が実は気付いてるんじゃないかーって思ってただろ? 」

「 うーん、まあ、ゼロスにはじめてあった時を改めて考えてみると、おかしなくらい挑戦的だったからねぇ。いつもならもっとめんどくさそうなのにさ 」

「 …何でもわかった振り? 」

「 違う違う。初めて会ったときからそれは、わかってた 」



お皿に盛り付けながらそう呟くと向こうで紅い髪が揺れるが見えた。少し明るめの赤しかいないから見るところそこしかない。それだけのことだとしてもその顔は不思議そうで私は、わかった振りはそっちだったかなあ。なんて余裕ぶってオムレツを作り始める



「 嘘吐きってさ、人の視線に敏感なんだよ。それが怪しみや殺意だと特にね 」

「 …職業病? 」

「 職業だったらこれは、ピエロだよ。あと、不良って言ったって神子だから警戒はしてた 」

「 だから、大ッ嫌いって言ったんだ? 」



警戒しすぎて突き放そうとした臆病な私にそう聞いたゼロスは少し悲しそうだった。そりゃ急にあんな言葉を言われたら誰だって傷つくんだろうけれどすぐにそれを『嘘』だと見破ったこの神子はやっぱり侮れない訳で



「 まあ、そうしたら下手に踏み入ってこないかと思ったんだけど? 」

「 …逆に踏み込んじまった場合はどうしたらいいんだろうねぇ 」

「 大人しく食事して引き下がるなんてどう? 」

「 あそこまで泣いておいて言うことじゃないだろ、浅葱ちゃん 」

「 良い提案だと思ったのになあ 」



残念。と笑いながらデザート以外を運ぶと嬉しそうな声が聞こえて、冷やしている最中のデザートを横目に兎マスクをとるとまたゼロスが笑う。



「 あの泣き顔で、今さら突き放すとか結構鬼だぜ? 」

「 普通、人の泣き顔で喜ぶなんてとんだ鬼畜野郎だけだと思ってたのに 」

「 いやあ、あれは後を引くね 」

「 後ろ髪引かれちゃいましたか 」

「 ありゃ、男なら引かれるって 」



引かれないヤツは男じゃないね。とまで言い切ったゼロスはそれでも朝ごはんを食べていて、私も一つ席を空けて座りコーヒーを口に含む。物理的な距離を置いて心理的な距離を測ろうと考えてしまった私はやっぱり鬼なのかもしれないけれど、それでも、この一つの空席が少しだけ居心地よく感じさせてくれる



「 それに、俺の笑顔の使い分けの話なんて、気づかない事を言ってくるの浅葱くらいだし 」

「 あれ?様とちゃん付けはもういいの? 」

「 バレてんのなら、あんまり意味ないのわかってるだろ? 」

「 えー、照れちゃーう 」



両頬に手を当ててわざとらしく声を上げてみたら、コツンッとゼロスに人差し指でおでこを小突かれた。軽く嘘だとばれたとしても何とも複雑だ。席あけてるのに届くなんて腕の長い証拠にしかならんぞ!自慢か!自慢なのか!



「 嘘、癖になりすぎ 」

「 一つボロが出ると更に出てくる芋づる式は困るからね。自然と口が動いちゃうのだよ、青年 」

「 うわ、子ども扱いとか止めろって 」

「 あっははー。青年は青年だよ 」

「 そういう浅葱は幾つな訳? 」

「 本気で聞いてる? 」

「 レディには失礼だと承知してるつもりだけど、ね 」



そう苦い顔で笑ったゼロスに私はコーヒーを飲みながらただ唸る。子供の頃とか誕生日は嬉しかったけれど今の歳といっても、もうろくに年齢なんて覚えてない。覚える必要がなくなったというか歳をとる事を自覚したくないらしく、生憎あやふやだ



「 残念でしたー!自分のことに興味がなさすぎて覚えてない! 」

「 うそォ! 」

「 真剣です!覚えてない! 」

「 ええええええええ!! 」



なにそれ!と声を上げたゼロスに私は笑った。自分の年齢を気にして生きるぐらいだったら覚えてなくたって良いだろう。知りたい人には証明書があるから見せれば良い話だと思っていたから本当に忘れてしまったんだけれども



( いや、そうだとしても。ほら、誕生日とか )
( 覚えている理由がわからない。でも友人によく言われたような… )
( まさか、本気で覚えてないなんて…! )

11/0211.




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