「 私はね、本当は、記憶喪失、じゃないの 」



例えば、例えば、例えば、そんな事ばかり彼らの頭の中で可能性が駆け巡っているのかと思うとなんともいえない気持ちになる。私なんて、どうやって説明しよう、もう本当を嘘に塗り固めてしまおうか。さらに嘘をついて、本物の振りをした偽者になってしまおうか。だなんて、何度も何度も考えては真っ白に塗りつぶす。この程度じゃ皆は納得しない、と何処かで私が笑ってしまっているから



「 …浅葱、立って大丈夫なのかよ 」

「 少し、声が、出しにくい、だけだから 」

「 その状態は、いつからなんですか 」

「 多分、リフィルが船にきた時、ぐらいから 」



また毛先からふわり、とマナの光が散っていく。
風に揺られて海の上に落ちて、光って、消えてしまう



「 まさか、今までずっと、隠していたんじゃ 」

「 ガイ。誰にだって、言いたくない、事はあるよ 」

「 何故早くに言わなかったんですか 」

「 説明が、面倒だから 」



これを知られたくなくて、人とある程度の距離をとってきたのに。口から軽い嘘はとまらないし、なんだか複雑な気分になってきて、今誰かに優しく声をかけられたのなら、きっと泣いてしまうぐらいに、息苦しくて胸が痛い



「 嘘、ですね? 」

「 どうかなあ 」

「 浅葱、ごまかさないで下さい 」

「 さあね 」

「 浅葱、もう嘘はやめろよ 」



真剣なゼロスの視線に私は、目をそらす。それでも嘘をつかなきゃいけないから。甘えてしまえばきっともう、距離を踏み出さなくちゃいけないだろうし彼らに余計な心配をかけてしまうのも、私の世界について帰れる方法だってきっと探してくれるだろう。でも、今は世界のために頑張って欲しいし、世界のために動くべき彼らに頼る訳には行かないから



「 もう一度聞きましょうか 」

「 私にも言いたくないことくらいある。深入りして欲しくないことしかない 」

「 その状態になっても、そういうんですか 」

「 知らなければ知らないほうがいい。それだけの事だ 」



だって、



「 人は、自分の無力さを悟ったら傷つくんだよ? 」

「 だから、言わねぇって言うのか 」

「 いや、私の心の準備が出来てないだけで、そこまで人の事気にしてる暇はないんだよね 」

「 …浅葱、本当にそれで良いのか 」

「 これが、いいの 」



甘えられないんだよ、自分で決めた事だから。一人でちゃんとそうするって決めたし、皆にも宣言している事にだけは嘘をつけないよ。でも、それでもね、私は君たちにお願いしなきゃいけないことがあるの



「 この事は、誰にも言わないで欲しい。それに、今の私から、居場所も奪わないで欲しいの 」

「 …そんな事、できるわけ 」

「 時間がきたら、自分で言うから。自分でちゃんと言えるから、だからお願い 」



限界がきたら、その時に皆が私の事を覚えていてくれたなら
私は自分で自分の嘘についてちゃんと、言うから



「 じゃあ、とりあいず私の薬を飲みなさい 」

「 それで明日の朝に説教させていただきますよ 」

「 じゃあ俺様は、明日の朝ごはんを頼もうかなあ 」

「 丁度仕事の予定があるし着いてきてもらうぞ? 」

「 オレは明日のデザートを頼むぜ 」

「 好き勝手言いやがって…!ユーリのデザートは晩御飯のときでお願いします 」



明日の朝からジェイドにお説教されて、ゼロスの朝ごはん作って、ガイと一緒に仕事行って、晩御飯の時のデザートをユーリの分作って。明日は忙しそうだなあ。くそう、そうやって散歩に行くための体力を削るつもりならば反抗してやりたくなるけれど、きっとこれでも妥協してくれてるんだろうな



「 クラトスは? 」

「 …私は 」

「 うん? 」

「 お前がヒトリでなければそれでいい 」



そういって、クラトスは私に笑った。ただ、その言葉が胸に突き刺さるようで頬を生ぬるくて冷たくなる何かが通り過ぎる感覚を何とか止めようと思っていたのに、自然と笑ってしまってもう片方の頬にも何かが流れ落ちて、ぽたん、と足元で音がした



「 パニールがね、私は子供達のお姉ちゃんなんだって教えてくれたから 」

「 …浅葱 」

「 此処にいる皆は家族なんだって言ってくれたから、ヒトリじゃないよ 」

「 そう、か 」

「 うん。 」



頷きながら片手でポーチから試験管を出した。夜のせいで何色かわからない液体を閉じているコルクに手をかけるとキュッポンと可愛らしい音を立ててはずれる。どんな味がするんだろう、もしかしたら副作用かなんかあるかもしれない。畜生気になる。いやでも、飲まないと寝かせてもらえないんだろうしな



「 良いから飲みなさいよ! 」

「 ごがっ!!! 」



喉の奥なんか刺さったんですけど!これ試験管じゃないんですか!ちょっと、え、なにこれ!さっきまで凄い良い話だったよねえ!?なんでこう雰囲気壊れたのかなあ!



( あ、顎が疲れる )
( 力加減忘れてたわ )
( あやうく試験管と一体化するところだったんですが! )
( いいじゃない、取れたんだから )

11/0210.




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