久々に仕事も家事も終わって暇が出来たのでこっそりと船から抜け出してみたはいいものの薬草とかを拾って帰るには遠出をしすぎた気がする。何とか戻っても夜中になりそうだなあ。でも帰らないとみんな心配するだろうし、確実にパパ組にはお説教を受けるのもわかっているし、なんだか理由になるものはないもんだろうか。思う思った矢先見覚えのある顔が手を振ってきた



「 おーい!浅葱ー! 」

「 ナナリー? 」



赤いツインテールの女性が私に手を振ってくれていて私も軽く振り返す。周りにいた仲間だか何だかがざわついているような気がするけれど、あまり気にしないでおこう。どうせ『ナナリーが変質者に手を振ってる』程度の事だろうしな。気にしない気にしない



「 どうしたんだ?こんな夜に 」

「 いや、今日は此処で野宿なんだけどね。ちょっとショーとやらかしちゃって、ギルドの移籍をしようと思ってね 」

「 こっちにはうちのとこのアドリビトムしかないけど? 」

「 そのアドリビトムに、さ。ちなみにこっちのみんなは一緒に移籍してくれるやつらなんだ 」

「 じゃあ、またにぎやかになるね。よろしく、ナナリー 」

「 ああ、よろしく! 」



パニールの家事係が増えたな。ただ買出しの量も増えるし多少はなんとかしなきゃいけない部分もあるけれどまあ…いいか。いいだろう、うん。いざとなったら荷物もちを呼べば何とかもてない量でもないとは思うし、いざとなったらイケメン集団つれてでも買い物に乗り込める自信はある。あと日でこまめに買い物とか、でも、安売りの日がなあ



「 それで、貴女はこんな夜に何をしてらしたんですか? 」

「 散歩、のはずだったんだけどねえ 」

「 散歩?でも、此処からアドリビトムって結構あるよな? 」

「 うん。なんだかふらふらーって来ちゃった。またふらふら帰るからまあいいや 」

「 君のようなか弱い女性が一人で帰るなどと無茶をするのはよくないな 」

「 あ、大丈夫ですからほっといてください 」



なんだろう、普通の心配そうな言葉なのにぞっとした。思わずぞっとして拒否してしまったけれど彼、ウッドロウ・ケルヴィンは笑顔だ。チキン肌のまま一歩あとずさると防衛本能がうずきだしたのか頭の奥で赤い警報が鳴り響いている気がする。そう、この男は危険だと



「 あんた、名前は? 」

「 浅葱って言うんだけど、えっと 」

「 あたしはルーティ 」

「 私はフィリアと申します 」

「 俺はスタン・エルロンっていいます! 」

「 私はウッドロウ・ケルヴィンだ 」

「 皆さんよろしくね。それで、そこの君は? 」



木によりかかってこっちをみていたアメジスト色の目に微笑むと彼は目をそらす。心がフォークで傷つけられたような気がしたけれどまあ、これは気のせいという事にしておこう。深く考えると自分で自分の傷をえぐりかねん!



「 ああ、こいつは 」

「 僕はリオンだ。今言っておくが、僕は別に馴れ合うつもりなどないからな 」

「 君がなくても私はあるから安心して良いよ? 」

「 誰が安心するか! 」

「 そうやって突っぱねてると疲れない? 」

「 お前が構ってくるからだろうが!! 」



怒られた。ちょっとしたコミュニケーションなのに怒られるだなんて思わなかった。いや、でも相手はリオンだ。坊ちゃんが一度や二度怒った程度でへこんでいては大した話にならないだろう。スタンなんて毎日怒られていてもおかしくないしな、元気だしてそろそろ帰る準備しないと



「 あんた、本当に失礼よね 」

「 ふん。別に構わん 」

「 いいんじゃない? 」

「 浅葱って寛容なんだな! 」

「 …寛容って言うか、そういう性格でも可愛げがあれば案外いいんじゃないかなって 」



可愛げがなくてこの性格だったらまあ、よくはなかったかもしれないけれど。プリン好きだし、甘いもの好きだし。この性格で。この仏頂面で甘いものを食べている姿を考えただけでなんだか可愛くて仕方がない気がしてきた。



「 浅葱、このまま一緒に食べていくかい? 」

「 ん?ううん。パニールが多分夜食をおいといてくれてると思うから戻らなきゃ 」

「 浅葱さん、帰ってしまわれるのですか? 」

「 うん、そろそろ帰らないと守護神と鬼畜眼鏡が待ってるから 」



待ってるというのは、早く帰らないと怒られるのだ。たまにユーリとかガイにもゼロスにも怒られる。もちろん守護神クラトスと鬼畜眼鏡ジェイドはセットで待機しているために本気で怖い。この間は夜中に砂浜でぼーっとしていただけなのに甲板で正座させられてしまった。もう二度とやりたくない



「 じゃあ、帰ったらギルド移籍の話チャットにしとくよ 」

「 助かるよ!ありがとう、浅葱 」

「 いえいえー 」



後ろ向きで歩きながら手を振ると、リオン以外は手を振ってくれた。あのツンデレは私にはまだデレを見せてくれるわけではないらしい。そのうち、そのうちデレをプリンとかプリン・ア・ラ・モードとかでなんとか!



「 みんな気をつけてきてねー 」




( 船に乗るまでが戸惑いと )
( 恐怖でいっぱいで砂浜で立ち止まる )
( もう夜中ギリギリの時間で帰るの怖い怖い怖い…! )

11/0210.




- ナノ -