負のことを考えると真っ白なシーツを外に干したら黒くなるんじゃないだろうか。そう邪念を働かせながら私はゆっくりとシーツを干してホールに戻ってきたらルビアがホールのテーブルに頬杖ついてため息をついていた。それをカイウスが見ているのだけれど、カイウスも同じようにため息をついて、何処かむすっとしているような表情のままルビアを見ている。



「 あーあ。本当にディセンダーがいるならさっさと解決してくれるはずなのに 」

「 ディセンダー? 」

「 浅葱も知ってるわよね、ディセンダー 」

「 ああ、まあ、 」



知っていると言うべきか。よく知っていると言うべきなのか答えにくいけれど曖昧な返事がそのまま空振りをしてルビアのため息がもう一度つかれた。あの子は今日で何度目のため息をついたんだろう。



「 こんな時に現れるんでしょう、ディセンダーって 」

「 あれは、おとぎ話だろ 」

「 そうね。ディセンダーなんて、いるわけないわね 」



いますけどね。君たちの身近にいるんですけどね!
ディセンダーだからって特別な訳でもない。みんなと一緒なのに、こうやって愚痴の対象にされているのはなんだかむっとする。必要な時だけに必要にされたなんて、あまりにも失礼な話だ



「 ほら、愚痴はお止めなさい。こうしている間にもラルヴァ被害は広がっているのだから 」

「 そうだよ。いるかどうかわかんないヤツに期待してちゃ駄目だと思うぜ 」



リフィルの一言で私も少し落ち着こうかと思ったのに、カイウスの二言目に今から荒いにいくはずだったシーツを思いっきり握り締めてしまう。落ち着け、落ち着くんだ、私。彼らは仲間だし、彼らは、何も、何も知らないだけなんだから



「 オレ達で出来る事をしないと… 」

「 わかってるったら!じゃあ、頑張りましょ! 」



機関室に向かう小さな背中をどんな気持ちで見送ったら良いのかわからなくて、シーツを握り締めたまま俯くとあの目が私を覗きこんで、首をかしげた



「 お姉ちゃん、怖い顔してる 」

「 え? 」

「 なにかあったの?もしかして、シーツの染みが取れないとか? 」

「 ああ、うん。そんなところ 」



とっさに嘘をつくとエールがニッコリと笑った。
いつもどおりの表情で、いつもどおりにっこりと私に笑う



「 わたしも手伝うね、お姉ちゃん! 」

「 …うん、ありがとう 」

「 浅葱お姉ちゃん? 」



また、自分が本物だと気付いてしまったら。エールがもしもディセンダーであることを知らされてしまったら、この子はまた泣くんだろうか。一人で部屋に閉じこもって泣いてしまうんだろうか。そうならないように、そうなって欲しくないから私は



「 エールはさ 」

「 うん? 」

「 もしも、自分がディセンダーだったら、どうしたい? 」



いないと思ってるのならそうやって笑ってくれれば良い。そうしたら私はそれで納得するしこのシーツの行方をちゃんと洗濯にできる。だから、



「 うーんと、ね 」



そして一拍あけるようにエールが紡いだ言葉に私は息を止めてしまいたくなった。くだらない事を聞いたのかもしれないって思うほど、その素直な言葉は私を見ていたから。なんだかそれが眩しくて、私はほんの少しだけ、胸が苦しくなる



( みんな大好きなのね )
( うん。だって、浅葱お姉ちゃんがいるんだもん )
( …、もう、 )
( え、ええ!?お姉ちゃん、何でなくの!? )
( 立派に育って… )

11/0210.




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