「 浅葱はディセンダーのお話知ってる? 」
ふいに振られた話題に布団たたきをリッドさえも引く速度で振り下ろしていた私の手も止まった。いや、別にその速度に意識していたわけではないし何よりも布団たたきを使うのが久しぶりでちょっとテンション敵にも変だったのは確かに認めようとは思う。最近布団はさみで叩いちゃうぐらいの横着振りの話をパニールにしたら大爆笑されてこれを渡されたわけなんだけれども、あれ?カノンノの話からずれてた
「 ディセンダー? 」
「 あ、やっぱり覚えてないのかな 」
「 有名なんだ 」
「 うん。昔から言われてる事なんだけどね 」
ぎゅっとカノンノが抱きしめている本を見れば確かに多少年期が入ってるように見える。私は布団たたきをもう一度振り下ろしてから布団を裏返すとそれに寄りかかるようにカノンノの方を向き、隣を叩くとカノンノも布団に寄りかかった。これで共犯者が出来たぜ…!
「 ディセンダーって言うのはね。この世界グラニデが危機に貧した時、世界樹が世界を救うために生み出した救世主のことなんだよ 」
「 英雄見たいな感じ? 」
「 あ!そうかも 」
子供みたいに笑うカノンノに私の頬も緩みそうになるけれど今のところみんなの前で笑った事がないので我慢。我慢する意味があるかと聞かれればないけれど、そのうちみんなに笑わないって文句言われそう
「 それでね、最後の希望として生まれたディセンダーは浅葱みたいに記憶喪失なんだって 」
「 …記憶喪失、な。なって見ればわかるけど、結構不便だぞ 」
「 私は物心ついたときからパニールと一緒だからちょっと違うんだよね 」
「 私は一人きりだったから 」
今思えば一人で良かったって思う。家族が一緒にいたらそれこそこんな風に此処にいられなかったとは思うから。一人だからこうやって強がって、笑わないとか勝手に決めて、皆の事を実は振り回したりして皆良い人だって思うから気付かない程度に甘えたりしてしまう。弱い強がりだなあ、私。
「 でも、世界樹ってその世界を護る為にディセンダーを生み出すなら 」
「 ? 」
「 よっぽど世界が好きなのか?世界樹ってヤツは 」
私にとってはただあの場所で立っているような樹にしか見えない。ずっとこの世界にいたのならばあの樹がどれだけ大切だとか皆みたいに思えるんだろうけれどこればっかりはどうしようもない
「 ああ、でも、世界樹はこの世界に住んでいる生き物が好きだから、ディセンダーに護らせるのかな 」
「 私達が? 」
「 うん。だからこそ、ディセンダーを人の中に紛れ込ませて、生き物の温かさを教えて、そのディセンダーの意志で護らせてるのかもね 」
「 ディセンダーの、意志… 」
きっと、まだディセンダーはこの世界にやってきてないんだろうと思う。この様子だと。だからと言うわけではないし、私はいつ帰れるかわからない。だけれど、そのディセンダーが悪い方向に変えられないようにしてあげたいとか守ってあげたいとか思うのは母性本能なのかな?ただ面倒見たがりなだけ?
「 浅葱も凄い事言うんだね 」
「 え? 」
「 いつもディセンダーなんていないって言われてたの。だけど浅葱は肯定的でディセンダーのこと良く知ってるみたいな素振りだから 」
「 いや、なんか私にも主観的というか共感面というものがあるみたいで、うん。なんか、そんな気がした 」
「 なんだか浅葱らしい 」
「 そうか? 」
嘘ついてごめんね。ディセンダーの事は知ってる。何度も何度も繰り返したゲームの話に出てくる主人公だから余計に。私は知らない振りを続けながらカノンノを見たけれど、カノンノは特に気になってはいないみたいなのでなんか安心する。
「 なんだか羨ましいなあ。浅葱は自由で 」
「 自由って言うか行き場所失っておどおどしてる不審者だぞ? 」
「 でも此処で布団叩き振るったりして私達の世話を焼いてくれてるじゃない 」
「 うーん…不思議な気持ち 」
布団たたきを持ちながら首を傾げてみるも見えるのは浅い海と広い青空。ビュオンと変な音を立てながら私に振られる布団たたき
「 今日だって布団干してくれてるもの 」
「 天気いいからさ 」
「 それなのに私の話も聞いてくれて、こんなお姉ちゃんが欲しかったなあ… 」
「 カノンノがいいなら此処にいる間はお姉ちゃんになってあげましょうか 」
「 本当?! 」
「 うん 」
ニコニコと笑みを浮かべるカノンノに私も釣られそうになってから後ろを向いて違う布団を叩いた。嬉しそうに本を抱きしめて笑っているカノンノを横目に私はいくつ目かの布団に狙いを定め布団たたきを天高く振り上げた
義妹ができました( 寂しいなら頼ってくれてもいい )
( 自分にはいえない言葉を他の人に言う )
( それでもいいような気がした )
10/0814.
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