「 アドリビトムというギルドはここか!アーハン? 」



洗濯物を干し終わって空っぽのかごを持ちながらホールに入ると赤い水玉に遭遇した。干し忘れた誰かのパンツじゃない事を願いながら踏み入れるとその水玉には頭があって一瞬だけ『妖怪水玉お化け』という名前が浮かんで思わず後ずさりすると、その水玉が振り返って口元がビキィ、と右上に釣りあがったのはもう駄目かもしれない。もういっそ振り返らないで欲しい、妖怪とか本気でむ



「 私は、ジャニス・カーン。ラルヴァを発明した者だ!ドゥ・ユー・ノウ・ミー? 」

「 ビックリさせんな!私を知っているか、だなんて聞くな!きっと今は色んな意味で全国で大人気だ馬鹿野郎! 」



本気で心臓が止まるかと思ったじゃないか。思い返しても怖い。怖すぎる。妖怪赤水玉お化け。贅沢な事に『妖怪』と『お化け』を同時に入れるというお得バリューセットだ。無駄にお得な感じがあって複雑な名前になってしまったけれど、ジャニスだった。一時的にラディッシュになっていた、あのジャニスだった。



「 あれが…、ジャニス?なんかエラぶってるね…。浅葱も荒ぶってるし 」

「 しっ、黙ってて、ジーニアス。まだ話があるみたい 」



先生、私スルーですか。全くそういうところがお茶目なんだから!
突っ込みなしほど寂しいものはないんですよ、いじめです!弱体ですよ先生!



「 すまん!私のせいで世界樹に傷を付けてしまった! 」



すっと、頭を下げたジャニスに後ろに経っていた私が目の前に立っているリフィルとジーニアスとハロルドと視線が合った。洗濯物かごを持っているせいか犯罪には見えなかったようだ。よかった。脅迫なんてしてないのに疑われたらどうしようかと思ったよ…



「 君達の説得をフイにしてしまった事をわびに来た!ソーリー! 」

「 …それだけ言いにきたの? 」

「 いや、ラルヴァに関して報告がある!あれから様々な村に搬入していたラルヴァが突然暴走を始めたらしい! 」 」



必死なのか、元々なのか。勢い余った声がホールに反響して空っぽのかごの中が微妙に揺れる。きっと今頃科学部屋にいるジェイドにもしっかりと聞こえているんじゃないだろうか。説明要らずの眼鏡大佐。



「 それらが植物や動物を変異させて人々に害を与えるようになったそうだ! 」



植物や動物が負を受け取って、負の思うがままに暴れる。そうなったら、今もっている洗濯かごの中も恐ろしい事に…カビが生えそうだ。カビが



「 ガッデム!これは恐らく、私は世界樹の根を傷つけた事が関係すると思われる! 」

「 負の連鎖が起こったのね 」



ハロルドがさらっと言った言葉にジャニスが目を丸くする。さすが天才科学者だ。起こる事も予想していたというのか。いや、まあ、この人は本物だからな。もう疑うのも疲れちゃうよね。本物だから絶対的な答えをすぐに思いつくんだから



「 噴出した負に触発されて、ラルヴァがどんな禍々しい力に転じるか、何となく予想はしていたけれど 」

「 申し訳ない!結果を急ぎ、学者としてのソウルを忘れていた私のミステイクだ 」



そう言って頭をまた下げたジャニスは、私のほうを見て「すまん」と頭を下げた。私の事を覚えていたんだなあって言う感動とそう感動している場合じゃない。この洗濯かごにカビが生えたら洗濯物を運ぶのが大変じゃないか!という複雑な心が混ざりに混ざって、アオカビあたりを生み出しそうだ



「 威力ばかりに捕らわれて、危険性の検分を怠っていた… 」

「 とにかく、科学部屋へお通しします。詳しくお話を聞かせてください 」



リフィルの様子にリフィルの隣でジャニスをみつめていたジーニアスが道をあけた。私もそろそろこの洗濯かごを片付けて赤毛の坊やへの準備をしないとな。とジャニスの床を通り過ぎるとリフィルがゆっくりと振り返る。



「 浅葱 」

「 はい、こちらは浅葱です! 」

「 何を言ってるの。その籠を片付けたら科学部屋に来るのよ? 」

「 うん。了解した 」

「 でも、浅葱って科学部屋に行って何してるの? 」

「 科学部屋の椅子で立てひざで座って話し聞いてるだけ 」

「 …立てひざ 」

「 ………いや、考え事するときって頭を落ち着かせたいからさ 」



立てひざの上に頭をのせてボーっと話を聞くのが最近楽な姿勢だ。
っと、それどころじゃなかったな。早く赤毛坊やへの対策を講じないとな



( どうやって嘘に嘘を重ねよう )
( 嘘吐きの嘘はいつも完璧にしなくては )
( 嘘がほつれるのは出来事が終わった後で、ね? )

11/0209.




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