「 えっとね、それはね 」
「 コレット。何してるの? 」
「 ロイドが、これがわかんないっていうから 」
問題らしきものが並べられたプリントを見たけれど、読めない。まったくを持って読めない。本当に誰かに教わった方が自分のためになるのかもしれないと思うくらいに読めないぞ…!なんて書いてあるんだ。いや、これは始めから見なかった振りをすれば…でも、ホールのテーブルで勉強しているところを見ると、あのシンフォニア部屋でリフィル教室が開かれてるのか?
「 ちなみに何がわからないって? 」
「 掛け算 」
「 え? 」
今なんていいましたか、重力に逆立った髪をした赤い服のボタンいっぱいの坊や。いや、聞き間違いってこともよくあるしな。妖精が住んだから子供も増えてるかもしれないし、もう一度この少年にチャンスを与える事も私の使命なのかもしれない。そうだ、きっとそうだ。
「 ロイド、ごめん、もう一回言って? 」
「 ななのだん 」
「
頭大丈夫? 」
「 ちょ、なんだよ!別に頭痛なんてないからな! 」
「 …あー、えっと、コレット 」
「 うん? 」
「 これは、重症患者じゃないですか 」
私は確かに馬鹿にしたつもりだったのにもかかわらず、この馬鹿正直な善良チックな逆毛ボタン大量使用男の子は素直に心配だと受け取ってしまった。畜生、良いやつっていうのはこういうのがあるから少し困っちゃうんだけどね。チェスターだったらもう食いつきが良い魚並みだったのになあ
「 あのね、浅葱。ロイドは病気じゃないよ? 」
「 ここにも善良思考の美少女がいる事を忘れてた 」
「 え?どこ? 」
貴女のことでございます、世界樹の神子様!
今すぐに頭を下げてしまいたいくらいポジティブというか、思考がいい子って幸いう事なんだろうか。羨ましい。私もあとどのくらい若ければ…!
「 で、ロイド。7の段ってことはそれ以外はわかるってこと? 」
「 いや、途中わかんねえんだよなー 」
「 本気で!?それって本気で!?嘘じゃないの!? 」
「 だってあんまり必要じゃないだろ 」
「 掛け算と割り算は結構使うんですけどね、ぼうや 」
17歳にも聞こえないと言うか、17歳にもなって社会的反抗をするロイド。お前は小学生か。今度からその年齢を忘れて年齢層の大分低い子を相手にしているような感じで会話するのが一番良いのかもしれない。それがきっと私のためであり、彼のためなんだろう
「 掛け算は大事だよ?買い物から何から、結構使うし 」
「 いや、だってよ。足し算があるし 」
「 コレット。足し算だけで世の中何とかなると思う? 」
「 少なくとも引き算は必要だよね 」
「 ロイド、本当に最低限知識しかないってどういう事なの!? 」
彼の何処か、それか一般的な道の途中で『掛け算』と『割り算』が迷子になったようです。多分帰ってこれないような迷路においてきたか川に流れてしまったんだろうか。それとも彼の嫌いな食べ物のトマトの中にそれらが含まれているのか。この疑問はきっと植物図鑑を見なくちゃわからないかもしれない
「 ところでロイド、ちょっとパナシーアボトルとか飲まない? 」
「 なんで? 」
「 万能薬だからさ。ぐいっとお願い 」
「 これ苦いんだよなあ 」
果たして馬鹿に聞くのかわからないけれど、もしかしたらという事もある。それかやっぱりトマトを食べさせたりするのが良いのかなあ?いやあ、でもクラトスはトマト嫌いえも頭悪くないしな…魚はいいってあったな。歌まであって始めて聞いた時はシュールすぎて吹いたけど
「 7の段できそう? 」
「 …わかんねえ 」
「 …ですよねー 」
「 七×一は七だろ? 」
「 うん。次は七×二だから、七+七だね 」
「 十四! 」
「 次は十四+七 」
「 掛け算じゃないだろ、それ! 」
掛け算は、足し算の応用です。足した答えに七を九回足せば自然と終わるから。いくら今ロイドが納得できなくてもそれで終わるから。
だから、
「 どうか、リフィルに見捨てられるなよ、ロイド 」
「 え?先生?先生がどうかしたのか? 」
「 もう、もういいの 」
剣一本で100なら両手に剣を持てば200の原理が、君の中で本当だってわかったから。ごめん、私はそれについてもう疑わないから。もう大人しく自分の思考のなかで必死に掛け算を解いてください。こうやって話している間にも君は人が教えた事を忘れてしまうのも、読めているんだから
今度は8の段で会いましょう( 七の段を忘れないでくれ )
( そして次は八の段で一緒に勉強しよう )
( 五の段は言わずも知れた簡単な問題だ。これについては期待を持っておこうかな )
( なあ、七に8回、七を足したら次なんだっけ? )
( 九回目の七を足してあげてください、ぼうや! )
11/0208.
→