今日は夕飯に、と思って鍋3つ分か4つ分くらいのカレーを作った。マーボカレーではなく、普通のカレーを甘口(ヨーグルト、ハチミツ入り)と中辛と辛口、それと全部混ぜたヤツにわけたんだけれど珍しくエールが辛口を所望してくるもので、辛口を渡したら食堂のテーブルで睨めっこ。カレーは好きだったとは思うし、嫌いなのはニンジンとピーマンくらいだったはずだ。今のところ、の話だけど
「 はい、すずちゃんは甘口ね 」
「 え? 」
「 違うっけ? 」
「 私、言いましたか? 」
「 いつもからしとか見て複雑そうな顔してたでしょう? 」
目をパチパチとさせて、頷いたすずちゃんは照れくさそうに笑った。可愛くて可愛くて仕方が無いけれど、食べ物を扱う今、この可愛い栗色の髪を撫でる事が出来ないのがこんなに悔しい日がこようとは…!くそう!なんでだ!なんでなんだ!なんでお玉もってカレーをよそってんだ、私!
「 エール、食わねえのか? 」
「 ゆ、ユーリ… 」
「 自分でさっき辛口って言ったろ? 」
「 …だって、スパーダが辛口食べられなきゃ大人じゃないって言うんだもん 」
スプーンをもってそういったエール。昔そう言ってからかうやつがいたなあ。だなんて、懐かしくも思いながら少し涙目で格闘しようとするエールを見た。震えるスプーンで自分の唇にそっとスプーンを入れようとしている。ついに、ついに味覚的な大人になろうという事なのか。そう思いながら手元は甘口カレーを準備している私も、そうとうな甘やかしなんだろうけれどねえ…
「 か、からいいいいいいい!からい!からいいいいい!! 」
「 …エール!はい、牛乳 」
私はエプロンをつけたまま泣き喚くエールになんとか牛乳を飲ませて、甘口カレーを辛口カレーと替える。もちろんスプーンも替えて、甘口のターンの準備は完了した。これで辛口を諦めて、いつも通りの笑顔で甘口カレーを食べてくれるんだろう
「 う、ううっ 」
「 エールにはまだ早かったかもね。急がなくたって良いんだよ? 」
「 カレーやだああ… 」
牛乳を両手に持ったまま涙を流すエール。
そして、
「 あの若草を後で海に流さなくてはならんようだな 」
「 そうですねぇ。あとで打ち合わせと行きましょうか、クラトス 」
二人の
大きすぎる愛を持った父親が動き出した事を知るはずもなく、辛口のカレーがトラウマになってしまったのか甘口カレーをスプーンでよそって口元にもってきてもプイッと横を向いて食べてくれそうにない。ああ、食べて欲しいんだけどなあ!今日の甘口カレーは自分でも子供向けで良いと思ったのに!
「 あ!浅葱姉さん! 」
「 いらっしゃい、カイル。リアラは? 」
「 あとでくるって 」
「 そっか。種類四つあるけどどうする? 」
「 甘口! 」
「 了解 」
カイルの分をよそう前にもう一度甘口カレーをエールの口元に運んでも頬を膨らませて、横を向いてしまう。くそう、あのパパ組私にもあの若草に一撃与える時間をくれないものか!この間やっと人参を食べるようになってきたって言うのに!どうしよう、とカイルに甘口カレーを渡すとエールの隣でおいしそうにカレーを頬張るカイル。それを見たエールはじいっと見つめてスプーンを握った
「 エール、美味しいよ? 」
「 う、うん… 」
カイルにまで促されて、そのスプーンですくい。
ゆっくりと口の中に運ぶ瞬間に、あの男がさっそうと現れてしまったのだ
「 よォ、エール辛口は食えたの、 」
「 ミスティック・ケージ!! 」
「 シャイニング・バインド!! 」
「 氷結は終焉 」
「 ちょ、浅葱、それを撃ったら…!! 」
「 せめて刹那にて砕けよ 」
「 おい、お前ら!あいつアレ撃ったらやべェんじゃねェのかよ!! 」
片手で刀の柄を握りながら私は、詠唱を続ける。いいんだ。気にしないんだ。だって完成品がこの手にあればもう怖いものなどないのだよ。自分以外回復し放題、魔法撃ち放題。若草の坊やはそれを知らんみたいだがな!
「 インブレイスエンド!! 」
「 ………なめてたぜっ… 」
氷の棺に閉じ込められ、戦闘不能になった決め台詞を吐きながら倒れた若草の坊やをどうやって海に投げようかと言う話で盛り上がり始めたパパ組はともかく。エールの甘口カレーはどうなったんだと見てみると、丁度ぱくん。と口に運んだところだった
「 エール、カレーおいしい? 」
「 あまい!からくないの!おいしい!すっごくおいしい! 」
「 本当に美味しいや!浅葱姉さん、これ何入れたの? 」
「 内緒だよ 」
「 えー! 」
だって、
わかったらつまんないでしょう?( わかった!愛情だ! )
( そうだねえ、それもあるかも )
( 本当?お姉ちゃんの気持ちがいっぱいつまってるの? )
( どうかなあ? )
11/0208.
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