君が振り返るたびにいつも思っていた。今日は何をしているんだろう?今日は何を覚えているのかなって。いつもいつも、そう思いながら私は君の事を目で追いかけていたのに。今日のエールは左足と左手を甲板の床につけたまま右足と右腕を宙へと伸ばしたままずーっと海の方を見ていた。正直、横大の字としか良いようがないんですが、今日は何をしていらっしゃるんですか、お嬢様!



「 なにしてるの、エール 」

「 こうやってみてたらね 」

「 うん 」

「 世界が逆に見えるかなって、思ったんだけど半分だけ回転したみたいで逆じゃないの 」



世界の反転をみたいってことなんだろうか?いや、私も小さい頃にそれででんぐり返しを繰り返した記憶があるから馬鹿には出来ないし気持ちもわかるから複雑というか。誰でも思いついて簡単に解決する事でも夢中になるよね、そうだよね



「 逆、か 」

「 うん? 」

「 エール、こうしてみようか 」



私も甲板に頭を置いて手を少し前に配置して足を蹴り上げた。そのまま柱に足を支えてもらう三点倒立をしながら、エールの方を見ると一瞬驚いていたようでポカンとしていたのに急ににっこりと笑みを浮かべて私の隣に並んで、前転を、一回して首をかしげた。え?前転?この子前転しちゃったの?かわいいなあ



「 …できない 」

「 エール、もう一回 」

「 うん 」



両手をついて、頭を置いて足を床から離そうと蹴るところん、と転がった。
頬を膨らませて唸っているエールは、もう一度、と同じ体制からまたころん。と転がる。本人には悪いけれど、正直に言おう。超、可 愛 い !親ばかって言われても姉場かっていわれても良いや!超絶可愛い!ああ、こうやってエールは私を殺す気なんだね!



「 浅葱おねえちゃん! 」

「 うん? 」

「 わたしも、やりたい 」

「 うん、じゃあもう一回 」

「 …が、頑張る 」



もう一度手を突いて一回転。それも、こてん。と。
真剣な本人に対して物凄く悪いことをしているような気もしているんだけれど、胸のずきゅんとくる。胸を刺すどころか軽く通過して言ってしまうほどの清々しさが恐ろしいほどにああ!どきどきする!



「 しょうがないなあ 」

「 …お姉ちゃん? 」

「 反転した世界が、そんなに見たい? 」

「 うん!見たい! 」



目を爛々と輝かせたこの子のお願いを叶えるのは、お姉ちゃんの役目ですからね。とちょっとお姉ちゃんぶってみた。ぶってみただけだから特にエールに影響も何もないんだけど、ほんのちょっとだけ頼れるお姉ちゃんアピールだ。しておいて損はない、はず



「 頭を置いて、その後頭より前のほうに手を平行させておく事 」

「 う…うん 」

「 お姉ちゃんが良いって言ったら足で床を蹴ること。ちなみに浮いた足は真っ直ぐにしておくんだよ? 」

「 わかったけど… 」

「 なに? 」

「 理由、聞かないの? 」



エールの後ろ側に立ったまま、思わず笑みを浮かべる



「 聞かない 」

「 どうして? 」

「 私も同じことをしようと思った事あるからね 」



ただの興味本位で。世界が反転したらどうなるんだろうって思って、家の壁を使って倒立をして親にさんざんからかわれたのも良い思い出だ。だけど、この世界が反転したら綺麗な景色が見れるんだろうなって私も、思うしエールにもその世界を見ていろんなことを思って欲しいから



「 はい、蹴ってー 」

「 はーい 」



キレのある動きで視界に迫ってくる足を私は構えていた手で掴み取る。ビュッとやってきた足は多分つかみ取れなかったら肩が外れていたかもしれない…!この間のモンクの名残だろうか。縦の回し蹴りとなるとまた、怖いというか、ねえ?



「 エール、どう? 」

「 …空と海と、世界樹が見える! 」

「 え?本当? 」

「 うん!あとね、全部逆になっちゃったよ! 」



嬉しそうに笑う声が聞こえて心にじわじわとあったかいが詰まっていく。暖かくて優しい気持ちが心をいっぱいにしていくから、嬉しくて嬉しくて、口元が押さえきれないほどに緩んでいく



( たのしい! )
( そんなに? )
( うん!だって、浅葱お姉ちゃんと一緒だもん )
( …きゅんとした )
( え? )
( ううん、なんでもない )

11/0207.




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