様子を伺うようにエールと入った科学室には重々しいというかすぎるほどの空気があって、息苦しいとかもうそれどころじゃないくらいだ。エアプレッシャーというか、まあ、空気圧がそこにはおかしなほど存在しているんじゃないかというくらいの重たさがあって私は息をするのも苦しくて、息を飲み込んだ
「 ゼロス、報告を続けて。これからの対策を練るから 」
そんなリフィルの声に私とエールは科学部屋の椅子に座ってその様子を見る。見るだけでいいだなんて良い仕事だなあ。なんて報告を諦めた私達はその赤い髪を後ろから見守り、エールは私の膝に座ったままその背を見ている
「 あー…、世界樹の根が爆破されて、そんで、根の傷口からだと思うんだけどブワーッと何かが噴出してきたんだよね 」
「 噴き出した? 」
同意を求めるようにこちらに視線を向けてきたリフィルに私とエールがほぼ同時に頷くと再びゼロスのほうに視線を戻した。ゼロスくん、信用されてないよ。紙ほどにもない信用率だよ。日ごろの態度を改めた方が身のためだと思うんだよ、私は!
「 そんで、妙ちくりんなヤツがその中からでてきたわけ 」
「 根の中に潜んでたって事?ありえないわね 」
「 いえ、事実です。ゼロスくんの言葉に嘘はありません 」
プレセアが同意をすると、リフィルが腕を組んだままこちらを見なかった。ゼロスの発言にはどうやら保証人が必要らしいです。大変だね。いちいち本当を喋る時には保障してくれる優しい誰かをつけておかないと皆に問答無用で疑われちゃうなんて。
「 んでよぉ、そいつ俺さま達を攻撃してきたんだ。結局、逃げられちまったけど 」
「 はっきりしているのは、世界樹を守れなかったこと。報告できるのはここまでです 」
もう一度、謝ったプレセアの声にリフィルが小さく「そう」と呟く。私の膝の上に座っているエールはその状況をただ眺めて、知識だけを取り込んでいて全く動く事もない。ただ、呆然とその場所を。その話を取り込むだけ
「 参ったわね、今回の件が世界樹に大きなダメージとなったのなら… 」
「 気を落としてもしょうがないわよ!どいて 」
勢いよく足を踏み出したハロルドに道をあけたゼロスやプレセア。丁度目の前くらいで立ち止まって小型機械を私に見せびらかしたハロルドに私は思わずいいなあとか。思いました。凄い羨ましいというかちょっと、その機械が欲しいです。正直ちょっとじゃなく羨ましいです。くれないかなあ
「 どこ行くの? 」
「 私、その場所に行ってくる。まずは噴出したものが何か、正体を突き止めてこようかなって 」
「 いってらっしゃい 」
「 …アンタに無茶させて良いなら連れて行くんだけどね 」
「 たまにならいいけど。今日はちょっと無理だよ 」
「 そう。残念だわ 」
ちょっと思い出でも作っておこうかと思ったのに。って言いながら科学室を出て行ったハロルドの言葉は多分本当だったと思う。私のことをわかっていた上でそう言ったのならばとんだ皮肉。とんだお門違いにもほどがある。私の記憶だけに残ってどうするんだよ、天才科学者
「 じゃあ、お姉ちゃん。今日は家事しちゃだめだよ? 」
「 え? 」
「 疲れてるでしょ?だから、駄目だよ 」
「 いや、でも、 」
「 だめったらだめなの! 」
「 …うーん 」
今更だけど、恋人距離異常に母と赤子距離だ。妙に近いというか近すぎてなんとも良いにくい。そりゃ、可愛い顔が近くにあれば嬉しいというか恥ずかしいというか…エールに彼氏とか出来たらこんな気持ちになってるんだろうなあ。くそう、羨ましい
「 浅葱お姉ちゃん、わかった? 」
「 まあ、うん 」
「 やった!今日はずっとわたしの傍にいるんだからね! 」
違約違いですお嬢さん。説明足りてないです。
しかしまあ、最近ずっと一緒っていうのも仕事以外ではなくなっていたから問題はないし、たまにはお姉ちゃんっぽいことをしてあげるのも一理あるかもしれない。よし、
「 じゃあ、とりあいず甲板で居眠りでもしようか 」
私の提案に嬉しそうに頷いたエールは私の膝の上からどいて私の手を引いた。そういえば、初めて街に一緒に行ったときもつたない言葉で必死に私の手を引いて走り回っていたっけなあ
なんにも変わらない日常( 前も今も )
( 君の暖かい手が )
( 私の手を引くのは、嬉しい )
11/0206.
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