ゲーデは、悲しみと苦しみ、怒り。どれだけの負を背負って、身体いっぱいに詰め込んでしまったんだろう。人間を恨んで敵視する。はじめて会ったのにも関わらず恐怖の目で見て怯えて、腕を振り回して。初対面の人に嫌いだと放つように、泣きそうな目でそういうなんてどれだけの勇気が合って、どれだけ、私達に絶望しているんだろう、なんて彼にもう一度手を伸ばすと左の手で私の手を振り払った



「 …お前も、俺を 」



彼は悲しそうに呟いて、俯く。でも、また抱きしめようとすれば今度は私を怖がって突き飛ばすんだろう。それでも構わない。
君に、人間はそんなに悪いものじゃないんだよって知って欲しいから。私はもう一度手を腕を伸ばす――と



「 身体がぶれる。 」



それこそ疎ましげに消えそうに残像となる自分の身体を見て眉間に皺を寄せる。



「 チ…、まだ常ならぬ体か…。ここで葬ってやりたいところだが… 」



だが。そういって彼は口を噤んだ。
私を見て、寂しそうに口を閉じてしまった。寂しいも悲しいも負であり彼の感情の特化した部分でもある。そして彼自身でもあると私は思っているからこそ、そのぶれる体に手を伸ばして地面につきそうなほど長い右腕の手にしゃがんで触れた、のに



「 世界樹の落とし子。いつか、おまえもろとも世界樹をへし折ってやる… 」



その手はまた振り払われて、エールに悪意のある言葉を吐き捨てた。ただ目の前で空気分散していくゲーデを止めることも出来なくて、消えていくその姿が何処か私に似ていて。胸がズキズキと痛むから手が伸ばせない。目の前で消えていく人を見守る気持ちは、こうなんだろうかって思うくらいに。さらさらと砂みたいに、



「 消えた…!? 」



プレセアの声にその方向を見ると、皆が武器を構えたまま唖然としていた。私の手は武器も、何もつかんでいなくって。寂しそうになった手がゆっくりと拳を作る。



「 何だったんだ、あいつ… 」



そんなゼロスの声を聞きながら、プレセアが私を通り過ぎて細い世界樹の根を見て私達の方へと振り返る。プレセアの足元には繊細な根に傷ができていて、その周りは黒ずんで、根だけが妙に印象に残るくらいに色が違って



「 …戻りましょう。世界樹の根が傷ついてしまった事を早く報告すべきです 」

「 リフィル様からお説教か。気が重いねぇ… 」



そういいながら私に近寄る足音に顔を上げると赤い髪が見えて、私はゆっくりと視線を落とした。赤い床だけ見えるように。黒ずんだ部分がおかしなくらい見えるほどに。



「 いや、怒った顔も美しいだろうね〜 」

「 リフィル先生美人だもんね! 」

「 お前ら反省しろ 」



エールまでどんな影響を受けたって言うんだ。いや、私も私でエールの前でリフィルは美人だのなんだのと言った気がしないでもないけれど、一般教養だろう。普通普通。



「 浅葱ちゃん 」

「 浅葱お姉ちゃん 」

「 …なに? 」

「 帰ろう? 」

「 そーそー。さっさと帰ろうぜ〜? 」



私に差し出された手と、手。
もちろん私はエールの手をとって立ち上がり、ふいに後ろを見た



( 思うだけで振り返った先には )
( 誰もいなくて世界樹の根が悲しげに広がっていた )
( ゲーデはまた独りだと思っていないといいのにな )

11/0205.




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