「 浅葱、 」



ポツリと呟いてから信じられないものを見るようなその顔をしばらく眺めてからなんと返事を返そうか真剣に頭の中で考えながら幾つかの言葉を組み合わせて消してを繰り返す。設定は崩さない。決めた事だ。決めた事にかんしてはしっかりしていないといけないし、なによりも覚えているジェイドがおかしいんだ。手の甲にしっかりとかかれたこの世界での『浅葱』の文字も



「 私は、浅葱ですが。あの、どちら様でしょうか? 」



忘れてしまえ。
こんな事を心で思いながらもゆっくりと首をかしげるとジェイドの口角がわずかに引きつる。



「 冗談があいかわらず上手ですねえ 」

「 …え?本当に私と会ったことが? 」



考え込む振りをして困ったように眉をしかめてみる。ここで半殺しには会いたくはないのとここから上手く逃げるためにはうまくつかなくちゃならない。それともここに大人しくいる振りをして夜中に逃げるのも悪くはないだろう。いくつか方法は考えておかないとジェイドに見つかったというのは酷く問題だ。彼の頭の回転のよさが特にな



「 …陛下、 」

「 なんだよ 」

「 浅葱に何を吹き込んだんですか 」



どこか怒ったような声の震えに陛下が私を見た



「 私が覚えていないばかりに失礼な事を…。ですが陛下は、私にこの場所を貸してくださっている方です。吹き込むなどそのような疑いはかけないでください 」

「 …貸す? 」

「 ああ、なかなか目が覚めないもんでな。打ち所が悪かったのか、ほとんどのことが頭からなくなってる 」



私は何もおぼえていませんアピールに陛下も参戦。私の固い意志に賛成してくれたのかそれともただ面白そうだったからなのか。色々考えれば理由は出てきそうだがこの際そんな事はどうでもいい。



「 浅葱 」

「 どうして私の名前を? 」

「 …貴女を知っているからです 」



相変わらず的確な答えだが、それだけじゃ私は揺らがないぞ。



「 帰りますよ 」

「 かえる? 」

「 ええ。貴女の居場所に 」

「 私の居場所はここです 」

「 違います 」



まずい。このままじゃ連れて行かれる。なにかそれっぽい事は何かいえないものだろうか。適当に嫌がるのもなんだか無理やり拉致されそうな気がするし、泣いて見るのも手だが一番面倒くさい。それにここで泣くのは精神的に疲労がたまりそうな予感がする。陛下が慌てそうな気がして。そして陛下は職務に戻ってくれたまえ!



「 い、嫌です、行きたくない…! 」



自分の体を抱きしめながら一歩、二歩と後ろにさがるとジェイドが困ったように呟いた



( では、またきます )
( そうあっさりと扉を閉じたその背は )
( どこか寂しそうに見えた )

12/0228.




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