「 たまにさ、一体何をしてあげられたのかなって思うんだよ 」



抱きしめた腕の中で上手く身動きの取れないゲーデの肩に頭を預けたまま呟くと「え」と不思議そうな声が部屋にポツリと響いた。抱きしめるだけだった手をゲーデの背中でポンポンと優しく叩きながら頭をなでると同じように頭を預けるゲーデの重みを感じながら、私はゆっくりと唇を動かす。ただ、今思っているようなことの本当と嘘を呟くように



「 そしてこれから、なにをしてあげられるのか。わからないし、傷つくのはもっと怖い 」

「 でも、 」

「 私はゲーデみたいに傷みに立ち向かう勇気はないんだ 」



自分に言い聞かせていると、誰がわかるのか。
きっと、この感情に酷く得意なゲーデはわかっているんだろう



「 じゃあ、逃げンのかよ 」

「 うん 」



第三者の声に頷く私を見ながら帽子のつばを持ち、顔を隠した彼の表情を見なくても悔しそうに歪んでいるのだけは分かる。かすかに見える顔の輪郭が不安定に震えているから。泣きそうで、でも私がいつもみたいな事を言わないから悔しくて、もどかしくて一度怒ってしまいたいそんな声。だけど、私に非があって怒れないとすれば、



「 名前、思い出せないんでしょう? 」

「 …っ 」

「 ほとんど、忘れてしまったんでしょう 」

「 …あ、あ 」



一つだけ思い当たるのは記憶の事。私の名前も、あったことも。ほとんど忘れてしまう中で、彼の中で影だけでも雰囲気だけでも頭の中に残っていたとすればそれは、



「 忘れていいよ 」



酷く穏やかに聞こえるその声が格好悪く震えていて。不恰好にも程があるような震え方と心のおくから叫びだしてしまいたいのにそんな情けない声なんかで無いって私の中で色んな言葉が上がっているのに。辛そうにしているスパーダにうまく書ける言葉なんて一つもなかった



「 早く忘れちまえ 」

「 ! 」

「 お前の中から私を失くせ 」



お願いだから、



「 名前なんか知らない、ただの…すれ違い人だったってな 」



中途半端に覚えていないで全て忘れて。半端に残った君との思い出は私にとってただの凶器だなんてスパーダは思ってないとしても、覚えていない思い出なんて意味なんかないんだよ。あっても、半端に覚えているだけじゃなんにもならないんだって、



「 悪ぃ 」



ばか


( ゲーデを抱きしめると )
( 君は震えていた )
( 私を抱きしめながら )

12/0828.




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