ぎゅうっと握られた手に重なった不恰好な腕を見ながら私はその目を見つめていた。不器用だから口にできないだけなのか、言葉にするのが難しいのか。ヒンヤリと冷たいその指先が私の手に触れている間。彼はじっと私を見ている。私の心の奥底を覗いているような、私の闇に触れてしまったようにあどけない表情を浮かべていたゲーデの見る影はなくもう一人の私と話をしているようにも見えた



「 前にも言った 」

「 え? 」



胃が弱っているみたいで少しだけ頭も痛い。



「『 お前がひとりぼっちになるのも 』」



だけど、君の言葉が頭にしみこむ。懐かしいようで、穏やかに響くその声が確実に私だけに向けられていると分かるから。目をそらせずに君のその綺麗な目を見れば



「『 お前が、一人で泣くのも見たくない 』」



泣きそうな顔で笑う私がいた



「『 お前が消えるなら、オレも消える 』」

「 でも、それはいけないよ 」



空いている手をゆっくりといつかを思い出すようにゲーデの頬にのばすとあの日みたいに冷たくないほんのり暖かい温度が伝わる。君が消える事だけはいけない。本当はこの場にいることも不思議なのに、世界樹が君とエールを一緒にいさせようとしたのか経緯はわからないがせっかくこの場所にいるのなら人間のいいところと悪いところを知って欲しいし、できる限りこの場所に留まって欲しいと思うのは



「 何故だ 」

「 ゲーデが好きだから 」



私のただの我侭だと言ったら君は笑うだろうか。
けして口に出来ない私の言葉を『好き』に言い換えることで逃げてしまうのはずるい事だとは思うけれど。君がそれでこそ、君がいることであの子が一人にならないでいるとすれば。あの子がいることでゲーデが一人にならないとすれば



「 そんなの、 」

「 嘘じゃないってゲーデは分かるでしょう 」

「 …卑怯だ 」

「 ありがとう 」

「 褒めてないぞ 」

「 私にとっては褒め言葉だよ 」



それは一つの幸せの形なんじゃないのかなと勝手に思う。君達は二人で一人。独りぼっちじゃどっちも笑えないと思うし、今は特にどちらがどちらも必要としているんじゃないのかな



「 そういえばさ、ゲーデ 」

「 ? 」



握った手をはなして腕を広げた私が捕まえた



「 おかえりなさい 」




( 私の言葉になんと返せば良いのかわからない彼は )
( 戸惑うように私の体を抱きしめた )
( その腕はどこか震えていて )

12/0828.




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