「 気分は、どうだ 」
たどたどしい言葉が聞こえる。目の前は少しぼんやりとしていて胃がなんとも言いがたい気持ち悪さに襲われているのに、左右不対象の色をした目が私を見つめていた。紫の髪に少し青い肌。相変わらずのカッコいい腕を下げたゲーデらしき姿が私を見つめて首をかしげている。一言も返答しない私を不思議がっているのかなんなのか、彼の表情は読めそうで読めないが、なんとなくエールに似ている気がした。少しでも同じ環境にいれば影響を起こすから似ていてもおかしくはないけれども
「 すこぶるわるい 」
「 すこぶる? 」
「 非常に…って言ってもわかりにくいか。すっごくとか、とてもって意味 」
「 …すこぶる 」
なんだか小さい頃のエールを思い出してしまいそうだ。体の大きさはあんまり変わらないけれど出会った当初を思い出すようなたどたどしさをもつゲーデが可愛い。カッコいい腕下げてるのにその大きなつり目といい、不安げに首をかしげる姿といい何処となく小動物のような感じがしてしまう。これは愛なのか。これこそ愛がなすべき技というべきなのか。きゅうんとしてしまうこの心臓がうらめしい…!
「 浅葱 」
「 …どうして覚えてるの 」
「 俺は今でも多少は負に影響されやすい。だから、浅葱の辛いとか悲しいのは伝わる。たとえそれが怒りでも 」
「 その原因が自分の名前でも? 」
「 ああ。その代わり、エールは覚えてないからアイツのいる前ではお前の名前は呼べない 」
すらすらと言葉を口にするゲーデに耳を傾けながら、周りを見た私は一つ昨日の夜聞いた声のするあの子がいないのだけ確認して「そうか」と口からこぼれた声にゲーデが眉間に皺を寄せた
「 今言っただろ 」
「 え? 」
「 お前の悲しいが伝わるって 」
心が軋む音がする
「 エールは今違う部屋で寝てる 」
淡々と口にしたその名前に、目線だけ下げるとゲーデが息を吐いた。ため息。限りなく私のせいだと思われるその言動が前にあったときより人間味を増していて誰がこの可愛い可愛いゲーデの前でため息をしたのか気になるところだけど、あとでそれはとっちめることにして
「 ほかにいるのはエール、だけ? 」
「 ジェイドは場所を知ってる。ユーリも、ゼロスも、ガイも。スパーダは廊下にいる 」
小動物は凛としたまま、私に告げた
「 浅葱はもう逃げない方がいい 」
逃げるなとただ告げる。今にだってかけだしてしまいそうな私に対して静かに手錠をかけるように。檻に閉じ込めるように。鍵をかけてしまうように。私の心へと優しい刃を向けた
「 いくら世界が戻ったとしても浅葱の負が消えた訳じゃない。下手に一人になれば、 」
「 取り込まれる?取り殺される? 」
「 両方、だと思う 」
「 うん。それでもいいよ 」
本当に負の私がそうしたいと願うなら。それでもいいんじゃないのかって思うのは間違いだろうかと聞こうとする私に
君は泣き出しそうな目をした( ダメだとも何も言わず )
( 悲しげに歪んだ瞳は )
( 私だけを映し出す )
12/0828.
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