一日目の検査が終わってちょうど昼ごろ。お腹がすいたなあ、と検査の為に抜いていた朝食を思い出して歩いているところころ良く太ったブウサギが目の前を通り過ぎた。あれは誰だ。ジェイドかルークかネフリーかサフィール、アスラン、ゲルダ。いやでも、あれは始めて見るような気がする。どこかあの6匹よりも小柄というか新入りっぽい雰囲気があるぞ。すると、本当に新入りだったらどうしよう。今度は誰の名前付けたんだあの人。



「 ちょうどいいところに!常磐を捕まえてください! 」

「 え?常磐? 」



常磐って私ですけど。と、銀髪の青年が指差した先をみるとさっきの小柄なブウサギが短い足で必死に走っている。あのまるっとしたお尻がなんとも可愛らしい生き物を指差す青年の顔があまりに必死なので、用意されていた薄紫の華奢なドレスを片手で持ち上げ、跳ねるように一歩踏み出すとブウサギは動きを止めてビクビクと私を見上げている



「 こっちにおいで 」

「 ぶ、 」

「 恐くないよ 」



メイド様に注意されるまでつけなかったグローブを外して両手を伸ばして微笑む。子ブウサギは小刻みに震えながらじわりじわりと私に近づいて、私の目の前に来て「ぶ?」と鳴いた。どうしよう、予想以上に子ブウサギも可愛い転がしたい。



「 お手数おかけしました。常磐を捕まえていただいてありがとうございます 」

「 この子の名前も常磐と言うんですか 」

「 ええ。…え? 」



ゆっくりと『常磐』を抱えながら、銀髪の青年の声がするほうへと振り返ると驚いたように瞬きを繰り返し「女性がどうして、」なんて言葉をこぼす。確かに陛下はジェイドの妹のネフリーさんに片想いしてから他の女の人に目をくれるような人じゃないからな。この場所に女が居る事自体が珍しいという訳か。それとも貴族っぽくないから余計に違和感があるんだろうか



「 私も、常磐と言うんです 」

「 あ…私は、アスラン・フリングスと申します。将軍の、 」

「 あ!いえ、堅苦しい挨拶は要りませんよ。フリングス将軍 」



やんわりと断ると、不思議そうな顔つきをするその温厚そうな雰囲気に子ブウサギを抱えたまま微笑む



「 それよりも、この子を陛下の下へ連れて行ったほうが良いのでしょう? 」

「 はい!ですが、 」

「 私も検診が終わった報告をしに行く予定だったんです。気になさらないで下さい 」

「 …その、常磐殿は 」

「 『殿』は、要りません。もとよりそのような身分ではありませんし、常磐と呼んでいただけますか 」



歩き始めた私に合わせるように歩くフリングス将軍を横目にどこか照れたような顔つきで目をそらす。名前を呼ぶのが恥ずかしいのだろうか。何て初々しいというか、純粋な感じがして可愛らしい。



「 常磐は、どうしてここへ? 」

「 今日は検診へ伺ったのですが、しばらくは毎日通うことになりそうです 」

「 お体が悪いのですか? 」

「 ちょっとだけ、実感の湧かないもののための検査かな 」



やばい、ボロが出た。長い間敬語を使うとふとした瞬間に一息をつくと安心しきって思わずいつもの喋り方になっちゃうのかもしれないが、この場合はフリングス将軍にどれほどの印象を与える事になるのかが問題だ。陛下にお世話になっている分なるべくいい子でいようとは思っているのに、こうも上手くいかないのは日頃の積み重ねなんだろうなあ



「 すみません、つい、 」

「 いえ、謝らないで下さい。その話し方のほうがあなたらしいと思いますから 」

「 …フリングス将軍、 」

「 はい 」



そういう言葉は卑怯だと思います。
だけど、



「 そういってもらえて嬉しい。ありがとう 」



立ち止まって頭まで下げるとフリングス将軍は優しく笑った
12/0920.




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