じわりじわりと背中から汗が吹き出て止まる気配の無い私の上でブウサギが寝返りをうった。下でベット代わりになっている私はこんなにも切羽詰っているというのにさっきから穏やかな顔つきのブウサギは可愛いなあもう癒されるわ!なんて思っていた私の心境は一転しこの状況をどう突破するべきか。陛下の口から出た『ドクメント』と言う文字の意味を知る私としては心底黒髭危機一髪の最後の一本を引かされそうになる悪夢を見ている気分だ。例えがあんまり重そうじゃないな…
「 どの部分を、でしょうか 」
とはいえ、寝ぼけきった頭をフル回転させてみる。ドクメントと言っても色々合ったはずだ。記憶とかアレルギーとかどういう病気にかかりやすいとか。言わば『説明書』のようなものではあることは把握している。つまりどの項目を見たのか。一番見られてはならないのは『テイルズシリーズ』というゲームや話の項目があるとすればそれなのだが
「 言っただろ『呼吸器に問題がありそうだった』って。つまり、呼吸器の問題の部分についてだけだ。流石にプライバシーを奥まで覗き込むつもりは無いぞ 」
「 …ありがとう、ございます 」
「 礼を言われる覚えないぞ? 」
「 助けていただいた上に、プライバシーのことまで気にしてくださってお優しい方なのですね 」
セーフ。と心の中でため息をつきながらうっかり営業用の笑顔で笑ってしまうと陛下もつられるように笑った。
「 そんな事を言う奴は、始めてだ 」
「 …陛下? 」
「 そんな事でお礼を言う常磐も、十分その『お優しい方』の一人だろうに 」
朝露のような思いが一つ零れ落ちるように。優しい声色で呟くように響く。ただ純粋な人の穏やかさと朗らかさが混じったような柔らかな空間に陛下の目がゆっくりと悔しそうに歪んで、私のお腹の上のブウサギにではなく私に向けて頭を下げた
「 すまなかった 」
「 え 」
なにが?本当は奥の奥まで見たって?いや、その可能性は薄い。確かドクメントを見れば見られたほうが酷く体力を消耗するはずだし、この人が嘘をついているようには見えない。見えないのだ。けしてそんな風に嘘をつくようには見えない。なら、一体何について謝っているのだろう。何について私に頭を下げているのかわからない。陛下が頭を下げるような事について、思い当たる節がなさすぎる
「 首の左側に、ボタンみたいな物があるだろ 」
そっと指の腹を滑らせるように柔らかい肌に触れる。なぞるように触っていくとつるっとした何かに当たった。さわり心地で言えば水晶のような少しヒヤリとするそれは、
「 呼吸器問題を改善するために学者が手を打った星晶だ 」
「 星晶… 」
「 女性の体に傷をつけるなってあれだけ念を押して、いざ仕事から戻ったら首に星晶を埋め込んでいるとは思わなかった 」
「 そう、でしたか 」
実感は無いが違和感はある。ただ、私としてはそれだけで。自分の体に何か埋め込まれた事で支障がなければそれでいいとも思ってしまう私は案外自分の体状態に疎いのかもしれない。首に星晶があることで結晶化、無機物化しないと保障があれば大きな黒子ができたと思えばいいだけなのであんまり気にするつもりはない。黒子のおかげで助かってる訳だしな
「 それを実行した学者は、どこへ? 」
「 …解雇した 」
「 え? 」
解雇?
そんな簡単に解雇していいんですかね、陛下…
「 一応、一日一回の検査をさせるように言ってある。何か体に異常があれば言ってくれ 」
「 あの、それは嬉しいですが、その… 」
私、行く場所がないんですよ
12/0920.
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