「 体の調子はどうだ 」



目を開けた瞬間にそんな声がした。確か倒れる前にギリギリ聞いた声だった音をたどるように目を泳がせるとぼやけきった人がそこにいる。ゆらゆらと定まらない視点に輪郭がふんわりとしていてそこに居るはずの人の凛とした顔立ちが柔らかく映ると同時にどくん、どくん、と繰り返す音が私に伝わった。確かな鼓動の音。それは私の上で眠っているブウサギからのものらしく、少し穏やかに響く



「 …悪くは、ないです 」

「 なら、いいが… 」



なんとなくだが、居心地が悪いというか視線が痛くて私の上で眠るブウサギの耳を見る。寝ながらピクピク動いてるぞ。どうやらわりと犬や猫と同じらしい。眠る顔からどんな夢を私の上で見ているのかわからないけれど穏やかそうな鼓動といい顔つきといい、すっかり安心しきって眠っているのを見るとさっきまで転がしていた時の思い出がよみがえった



「 名前を聞いてもいいか? 」

「 常磐です 」

「 俺はピオニー。ピオニー・ウパラ・マルクト九世。帝国の現皇帝ってとこだな 」

「 …陛下、 」



思わず呟いた一言に「ん?」と返事をしたピオニー陛下は少し複雑そうな顔をしている。私としてもその複雑な顔をしていても間違いではないのだが、私としても気がかりな事が多い。何故見ず知らずの私を助けたんだろう。本当はこんな風に手厚くベットに寝かされるよりは牢屋に入れられるほうが正しい判断だと思う。



「 得体の知れない女を牢屋ではなく部屋に寝かせるとはどういったお考えでしょうか 」

「 得体の知れないって自分で言うなよ。俺も悩んだが、倒れた時に呼吸器に問題がありそうだったからさっきまで治療室に放り込まれてたんだぞ 」

「 呼吸器? 」

「 さっき、息苦しそうに倒れただろう。顔をまっ青にして。ついさっきまで息が止まっていたんだから 」



息が止まってた?いや、確かに息苦しくて目が覚めたのは本当だし、酸素薄いなあって思いながら意外とブウサギと遊んでいられた。でも何で倒れたんだっけ。確か陛下の声がして座ったままじゃ失礼だからって立ち上がろうと足に力を入れようとしたら力が入らなくて、



「 だけど始めての経験だった。流れ星が庭に落ちたと思ったら得体の知れない女がジェイド達と遊んでるなんて思いもしなかったし 」

「 流れ星? 」

「 ああ。夜中に仕事してたら流れ星が流れてきてだな 」



この人のことだからまた仕事をサボろうとしたんだろうなあ。
ちょうどいいもの見つけてサボる口実にしようとしたんだろうなあ。



「 落ちた場所に行ってみれば、常磐が居た 」



これが私じゃなくて絶世の美女だったら大喜びなんだろう。逆に私も流れ星で絶世の美女が落ちてきたら大歓喜!大喜び!嬉しすぎて世界再生の旅とかでちゃうくらい喜べるね。余裕ですよ。残念ながら私でしたが!



「 『チキュウ人』『ニッポン国』の常磐が、な 」

「 ! 」



どうやら笑ってはいられる状況じゃないようで



「 悪いとは思うが、治療の際ドクメントを少し見せてもらった 」



冷や汗が滲んだ
12/0920.




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