「 雨、か… 」



窓際に三角座りでしゃがみ込んだ私は膝の間に顎をうずめる。今のところ世界樹から光が流れる事は無い。もしかしたら私が来る前に来ていたとしたら、この世界が変わっていくのを見守るだけになってしまうんだろうか。それは、ここにいる意味があるのか私にはわからないけれど。どんなディセンダーで性別は男女どっちでどんな声をしていて、どんな風に表情を浮かべるのか知りたいのにこの場所にずっと留まる事なんてできやしない



「 落ち着かないなあ 」



私。本当に落ち着かない。口を開けばため息ばかりで、先のことばかり考えているのはしんどいけれどそれ以上のワクワクがあることがわかっている。ひとまず、ディセンダーに会いたいと言う欲求だけが私の中をざわめかせてはため息に変わる



「 ため息ばっかりついてると、幸せが逃げるぞ 」

「 ピオニー… 」

「 なんだよ、そんなへこたれた顔しやがって。俺がしたいんだよ、その顔 」

「 お疲れ様です 」

「 おう 」



狭い窓際に無理やり入ってきて座り込んだ人をチラリと見ながら首を鳴らすその姿にもう一度「お疲れ様です」と呟くとにんまりと笑って頷いた。この人はけして私の前で『疲れた』なんていわないし、ほかの人の前でもそんな事を言っているところを見たことが無い。たまにへこんでいるけれど、それだって悩みすぎてのことで他愛の無いことでため息だってつかないし、人の前に立てば『陛下』そのものなのだから



「 城の中は飽きたのか 」

「 雨だから、にぎわう街並みが見えなくて寂しいだけだよ 」

「 ああ…そうだな 」

「 それに、雨音は必要な声さえ消してしまう 」



寂しいんだな。とも陛下は私に言わないし、ただ静かに頷いて何も言わずにその大きな手を私へと伸ばすだけ。すっぽりと頭にかぶさった手が優しく動く中で、拗ねたように膝の間に顔をうずめるとドレスのなんともいえない香りが鼻についた



「 常磐は詩人みたいな事を言う癖がある 」

「 …え? 」

「 アスランにも何か言っただろ 」

「 記憶には無いけど… 」

「 無意識か。やっかいだな 」



ため息をつきそうな勢いの陛下を見ながら、首をかしげると頭の上で跳ねた大きな手



「 確かに、お前のいう事も確かだ 」

「 ん? 」

「 雨音は誰かが叫んだ必要な声も、外部からの危険な足音も全て消してしまう 」

「 ! 」



まさか、ここに逃げ込みにきたというわけではないだろうな。一応念のためというのもおかしな話ではあるがあの柄は持っているし別に必要なものはこれ以外何もない。あとは命さえあれば、動ける体さえあれば次は大丈夫だ。一度経験した恐怖を超えてみせる。



「 俺自身の足音も、声も消えてしまうけどな 」



はっとして顔を上げると、胸が痛んだ。苦しげに眉間に皺を寄せた彼に私の体からマナは飛んでいない。怪我はしていないとわかっているのに、酷く悲痛に聞こえたその声に思わず頬にすべる生暖かいそれは



「 常磐? 」

「 私には聞こえてるよ 」

「 …ああ 」

「 ピオニーの声も、足音も、ここにいるって音も聞こえてるから 」



誰の涙かは私にはわからなかった。
私自身なのか、それともピオニーの涙なのか



「 だから、 」



そんな悲しげにそんな事を言わないで
12/1014.




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