心が形になる。この柄を握るといつも寂しげな色をする刀身がすらりと現れては、悪意すら思うほど透き通る緑に眉間に皺を寄せた。人を肉体的には殺すことの出来ない刀。人を精神的にいたぶる為の心をこめた刃。これをうまく使えると渡してきたピオニーには悪いとは思うが、色々私も思うところがあるのだ。そんな善良な人間ではないし、こんなに大層な物を渡されたところで反応しがたいとはあの時の私にピッタリの言葉である。今の私は残念ながら、善良なのか偽善なのかわからないところだけど
「 上手く言ったかなあ 」
一人部屋で呟く声が反響した。今頃あの男の子が品種改良開発の話をしているころだろう。必要な資料は彼の手で私が説明をしながら書かせたものがある。ある意味、死に際のプレゼンテーションともいえるその行動に堅物大臣達は度肝を抜かれているハズだと思うと面白くなってきた。とんだ喜劇だな、こりゃ、
「 常磐、 」
「 常磐、結論が出ました、 」
駆け込んでくるピオニーとフリングス将軍の声になるべく不安げに。だけど優雅に振り返ると二人の顔は、驚いた顔のまま私を見ている。
「 結論は、 」
「 アイツは自分の村である計画をすることになった 」
品種改良計画の話だろうか。多分彼はそれに一生をかけることになるとは思うが、死なれるよりはマシだ。誰かが傷つくよりは、自分の好きな林檎に対して情熱を注いでもらった方が私としてもいいし、他の村のためにもなるし、私じゃそんなことできないからありがたいというか、
「 まさか、最後の最後であんな提案をしてくるとは思わなかったが。食物の新種改良にてマナの恵みの少ない土地での栽培を可能にする発想はなかった、 」
「 そもそも、今まで土地を移動するしか発想はなかったというところが盲点でしたが、 」
「 ああ。…だが、 」
私に近づいてくるピオニーの姿に首をかしげると私をじいっと見て、疑うように覗き込んでくる。なんなんだ。なんか私がしただろうか。直接的なことは何もしていないだろうし、なによりもある意味間接的なのだ。それに意味もない私の独り言だし、こうだったらいいなあって言葉をただ呟いただけなのだから
「 常磐、お前があいつに入れ知恵したんだな? 」
「 入れ知恵?なんのこと? 」
さっぱりわかりたくない。
「 お前、数日前に俺に言っただろ。生活性生産性のあるものって 」
「 … 」
「 それを伝えたんだと思っているんだが 」
ピオニーの目つきが少し鋭くなるのにドキッとしながら、後ろに見えるフリングス将軍もなにか思いあたりがあるようで目を泳がせているのを見ていると悪意を覚える。お願いだから喋るなよ。この間こっそり牢屋に言ってた事とか
「 あー…どっかで呟いたかもしれないけど、 」
「 …常磐、 」
「 私はあの子に君の作った林檎が食べたいなあって言っただけだし、そんな面倒な事は言ってないよ。私省エネ主義だから 」
遠まわしだがな。
品種改良ができたら、情報をマルクトにも流し、私はそれで出来た林檎やら食物を得ることが出来る。遠回りはしてしまいそうだが、それだけの話なのだ。
「 言うまでもなく、私が林檎を食べたかっただけだよ 」
うん。と頷いてみせると二人は呆れたような顔でため息混じりに言った
「「 嘘吐き 」」
12/0925.
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