部屋を抜け出してみようと、ピオニーやフリングス将軍の目を盗むようにやってきた牢の中であの子は膝を抱えてぼんやりとしていた。何を考えているのかわからないが、私は昨日の夜の花壇で全く同じポーズをしていただけに文句は言えまい。っていうか、言いたくも無い。自分に感想を言うみたいでこっぱずかしい真似は出来ないので、ひっそりと鉄格子を覗き込むようにみるとその指先は昨日のピオニーと同じ様に震えていた



「 寒いの? 」

「 う、わ、 」



全然的を得ていないような私の言葉に、あの子は肩を大きく揺らして私を見る。多分、ピオニーと同じ様に恐いんじゃないのかなと思う。殺すほうも殺されるほうも恐いのは今の私ならわかる。この子に一度殺されそうになったし、殺しそうになった。結果が斬れなかっただけで。あの時刀身のあるものを持っていたら多分、この子はここにいなかったのだから



「 そう、だよ。寒い。ここはすげー寒い 」

「 あとで、看守さんにお願いしてみるね 」

「 ………、おまえ、ばかだろ 」

「 ………喧嘩売ってるの? 」



ひっぱたくぞ。とついでに口にしてしまいそうな言葉にお腹に力を入れる。だけどコルセットがぐっとその腹の肉を締め付けて『うっ』と飲み込んだ発言にあの子が



「 やっぱり、変な奴 」



そういって笑った。
その顔はなんだかまだまだ幼い子供のような部分の残る淡い笑みで



「 君は、 」

「 なんだよ 」

「 死んだらいけない 」



思わず呟いた言葉に、少年の目が大きく見開かれた。ゆっくりと手を伸ばす鉄格子の先で君の手が私に触れる。ひやりと冷え切った手を包むように握り締めると、震える唇を止めるように薄く噛んだ唇が酷く青白く私の目に映る



「 本当はね、こんなことで誰も死なないようにしなきゃいけないんだ。君も、あの人も、皆、みんな 」

「 ! 」

「 だって、全てのエネルギーには限りがあって。私達の命にも限りがあることを知っていながら願わないでしょう?『早く死ねますように』なんて 」

「 だけど!…俺はもう 」



そんな諦めるなんて卑怯な真似しないでくれよ。私だって今頑張ろうとしているのも確かで、あの人もそれを望んでいないのはわかっているのだから



「 あの人は、君を殺したくないと私に言った 」

「 え、 」

「 少なからず私は恩人に助けてもらった命を仇で返すつもりはない。だから、君を殺さないように動くつもりだが、抵抗するつもりはあるかな? 」



助けてもらった命をどんな風に使うかは私次第だけど、私の疑問に対してしっかりとあの人は私に答えたのだから適当には振舞えない。それにあんな風に震える姿は見たことが無いから、相当自分を追い詰めてるんだろうって思うから。いつもの自信に満ち溢れているあの人に戻ってもらうために、私は、



「 人はね、才ある者を殺さないものだよ 」



君に知恵を授けようと思う。



「 抵抗をするつもりがあるのなら、君の出身地の名産品『林檎』をマナの薄い土地で育つように品種改良して欲しい 」

「 …ちょ、っと待てよ。俺はここから出られないし、そんなこと、 」

「 提案するんだ。もしそれがうまくいけば、これからの世界、マナが薄い土地でも育ちやすい野菜が出来て食糧事情が回復する可能性もある。 」



戦争で恐がるくらいなら、戦争後自分たちが武器に出来る製品の一つや二つ作っておいても村だか町だかわからないが少しの保障か取引条件にはなるだろうし、



「 一応国は違うから結果が出た際には、改良の情報を提供する。とでも言っておけば夢のような製品だからね、頷かざる終えないだろう 」



これからの世界には必要な事だとは思うから。
できるだけ期待をしたいというか、私にとって都合が良かったと言うべきかな
12/0924.




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