「 何を考えているんだ 」



ハッとしたように、その声のした方へ視線を向けるとピオニーが花壇を挟んで向こう側に立っている。真っ暗闇にはならないこの城の中庭の中で電気ではない灯りに包まれるように花壇の端に隠れるように座り込んだままでその姿を見ると、彼にはしっかり私が見えているようでため息混じりに視線だけを私に向けていた。別にそんなに見なくてもいいんだが、と思うには思うけれど彼にも何かあるんだろう。立ったまま底を動く気配がない。



「 あの牢屋の子は、どうなるの? 」

「 ………。それより、 」

「 あの子は、死んでしまうの? 」

「 常磐、 」



王族に刃を向けるという意味はどの世界でも一緒なのだろうか。彼は多分だけど、また美味しい林檎を作れる土地が欲しかったんだと思うし、村で生活していきたかっただけだとして。国はその土地を奪ったような結果がある。元をたどれば、責任は国にもあるし、そういう生き方や生活習慣を欲する国民にもあると思ってしまうから。誰が悪いとは正直に言えないけれど



「 どうすればいいんだろうな 」

「 ! 」



ゆっくりと言葉にしたピオニーの声はあまりに儚げで、立ち上がりそうになる足は痺れていて使い物にならない



「 あいつを生かしておけば城中は小うるさく言うだろう。それに次は殺される可能性もある 」

「 うん、 」

「 あいつを殺せば、城中はさわがないとしても確実に他国であろうと民の命を奪うことになる。それこそ、緊迫しつつある他国との戦争の引き金だ 」



そうだね、とは簡単に言えない私はその言葉を頭の中で反復するだけで無慈悲に問いかけた質問に対する回答へお礼を言う訳でもない私は。戦争と狙われるリスクの重さを量りにかけてしまいそうになるのにどちらも出来なくて俯いた



「 戦争をすれば大勢が被害にあう。でも生かしておけば狙われるのは俺だけだ 」

「 どちらにしても、嫌だ 」



わがままだとしても、誰かが傷つくところを見たくない



「 あの子は、林檎が名産物の場所に暮らしていて、また林檎を育てたいとか食べたいとか思っていただけで。それで殺してしまうのもおかしいし 」

「 おまえ、 」

「 国民の事を考えて自分にリスクを負うピオニーも、悲しいよ。私は、違う考えがあると思う。星晶がなくなったら生活していけなくなって緊迫していくのはもう目に見えているのに、奪い合うよりも他の生活に使えるものはないのかな。掘りつくしてなくなるものより換わりになるもの、生活性生産性のあるもの、その発案者はいないのか 」



早くキールに会って、その計画をこの人に話してほしいと思うのに。それができないからもどかしくて、つい隠していた口調が最後の最後に出てしまうとハッとしたようにピオニーが腕を組んだ



「 大きな力や大きな生産性のあるものがあるとすぐにどんな場所でも、やれ戦争だやれ奪い合いだと騒ぎ立てて、戦う事ばっかりだ 」

「 …、 」

「 奪い合うために世界樹は命を与えた訳じゃないのに 」



ピオニーの顔を見ないようにようやく痺れが治った足に力を入れて立ち上がる。言い方は悪いが、言いたいことをぶっ放した私は内心すっきりしているのだがほんの少し彼の反応が気にかかって顔を上げそうになるのを堪えた。ところで全然関係ないがこの世界には品種改良の技術はないのだろうか。マナがない土地でも育つ食物とか、せめてマナが少ない土地でも育ちやすいものとか、この際なんでもいい。



「 …常磐、 」



考えを止めて、恐る恐る顔を上げれば



「 俺も、あいつを殺したくない 」



そういって、震える手で私を抱きしめた。
12/0924.




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