「 魔法の剣? 」



思わず聞き返した言葉にピオニーが強く頷いた。どうしよう、今まで以上に話が読めない。あの時私は斬ったはずだし致命傷ではなかったと言われてもあの剣の刺さった感触は確かで、私はばっさりと切込みを入れたはずだと認識しているはずなのに。それに訓練の時以上に握りこみも強かったし、自分で言うにも嫌な話だが手加減はしなかった。多少無茶苦茶に切り下ろしたとしてもあの距離感や感覚からして致命傷ではないと言うのもおかしい気がするのだ。相手が私よりも戦いに慣れていて致命傷は避けたとか?なら、彼は倒れなかったはずなのに、



「 この柄は、持ち主の心を形にする 」

「 心を、形に? 」



そっと出てきたあの柄にどきっとしながらもまた始めと同じ様に刀身がないのを確認すると「俺には使えなくてな」とただのコレクションだったんだが。と呟くピオニーを見ているとフリングス将軍が苦笑していた。



「 今見たとおり刀身がまったくないだろ?だから肉体は切れない 」

「 だけど、私が振るった時は深緑の水晶みたいな刀身が、 」

「 あれは常磐の『心』だ 」



あの刀身が?まるで幻影のようなものじゃないか。でも、あの一撃の前に一度相手の攻撃を薙いでいるのは何故だ。肉体は切れなくても武器ははじけるのか?



「 お前が斬ったのは相手の心。相手の敵意や悪意だな。心が体を傷つけることは出来なくても、心が言葉になって他人の心を傷つけるようにこの柄は自分の心を宿し相手の心を傷つける 」

「 心を傷つけられた人は、どうなるの? 」

「 お前がどういうつもりでこの柄を握ったかによる。でも、今回は殺したくないって思いながらあいつを斬っただろ 」

「 !…どうして 」

「 斬られて気を失った。その後すぐに目を覚ましたが、あいつケロッとしてたぞ 」



後で見に行くか?と聞くピオニーに頷くとフリングス将軍が「私がお連れします」と申し出てくれたのでもう一度頷いておいた。お願いします。一人で行けば行くほど多分、その人を見たときにどう反応するかわからないから。ほかの人がいれば多少は自分自身を保っていられると思うし、



「 まあ、どんな気持ちであろうと、この柄を握って相手に振り下ろせばその気持ちが相手の心を傷つける。感情がダイレクトに伝わる 」

「 もしかして、だけど、ピオニーが私を呼んだ理由は、 」

「 この柄を使うのが上手そうだなと思ってな 」



そっと握らされた柄を握り締めると、



「 今みたいにお前は素直だし、下手な奴より人の痛みを考える。相手のことを考えられる優しい奴になら、使いこなせそうだと思ったわけだ 」

「 ……随分と信用していただいて。私は、複雑だよ 」



すらりと伸びていく深緑の水晶が輝いた。これが私の心だというのならば、白銀でもなく黒曜石のように黒くなく、ただ少し悲しい緑色をしている事を思えば間違いでもないのかもしれないが。私の心にしては幾分か綺麗過ぎるような、



「 お前の人柄を見ただけだ 」

「 …フリングス将軍にもそうお見えで? 」

「 さっきまで泣いていたお嬢さんが、あなたなら 」



どこか透き通って見えるそれに、上手く笑えなかった。



「 それに、普通の剣を持たせたら、お前は泣きっぱなしになるだろ 」

「 そ、そんなこと…! 」



ありえてしまうから否定が出来なくて。
12/0921.




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