練習用木刀を振るう音が二つ響く。ぶつかり合い、弾き、渇いた音が地面に転がる。フリングス将軍は汗一つかかずに構えていた木刀を下ろし、私は思わずその様子に苦笑してしまわざるおえなかった。鍛えていた分も加え力の差では敵わないし、たった一回の攻撃に木刀が簡単に飛ばされてしまったのだ。握っていた手はじんじん痺れて痛むわ、多少は慣れたつもりで全攻撃を受けるわけでなく剣筋を流そうと相手の剣を滑らせて見るが向こうの方が動きが早くてついていけなく、木刀が落ちたわけだが
「 さすが毎日の訓練を欠かさず行ってらっしゃる… 」
「 また、その敬語を使っていますよ 」
「 …んー… 」
手をパタパタと振って痺れをとろうにも、手を振ると潰れた豆に風が触ってヒリヒリする。一旦テーピングでも巻いてみようかと思うが、このぐらいでヘコたれたくない。明日は絶対筋肉痛だが、痛みが来る前に動かなくては…
「 最初よりは防御から流すようになりましたね 」
「 男性の力をまともに受けてちゃ、体を痛めるのはわかったから変えていこうと思ったんだけど難しいなあ 」
「 まだまだこれからですよ 」
「 よし、もう一回! 」
「 今日はもう手合わせはしません 」
キッパリ言い放ったフリングス将軍に「勝ち逃げか!」と声を上げると「はい」と笑った。ずるい。私も一回ぐらい勝ち逃げしてやりたい。だから部屋に帰ったら早速腕立てと腹筋をはじめてみようと思う。このくらいでバテてたら訓練にもならないし、せっかくのピオニーの厚意を無駄にしてしまうような気がして、気が気でないのだ。
「 何を考えているんですか 」
「 フリングス将軍に勝つ方法 」
「 そう簡単に負けられませんが 」
「 今は余裕でしょう。汗一つかいて無いのわかってるよ 」
何度見ても汗一つかかずに私の稽古の相手をしてくれているフリングス将軍に恨めしい目を送ってみると、脚が震えて視界の中心がゆっくりと下がっていく。
「 少し休んでから帰りましょう 」
「 ありがとう、 」
「 お礼を言われるまでのことはしていませんから 」
隣に座り込んだフリングス将軍を見ていると優しげに微笑みながら「どうしました?」なんて声をかけてくるものだから思わず呟いてしまいそうになる言葉を隠した。月明かりの中に煌くフリングス将軍の銀髪が酷く綺麗に見えてしまったことを。こんな事を言ってしまえば、彼はまた私との距離感で悩むだろうし、どんな言葉をかけて良いのかわからずに口をつぐんでしまいそうで
「 月が綺麗だね 」
「 ええ。そうですね 」
誤魔化すように上げた夜空。こんなに綺麗な空の下で熱く稽古をしていたんだと思うと前の世界の私じゃ想像もつかないようなことをしていて笑えてしまいそうで、口元を押さえようと手をあげようとした上にやんわりと重みがかかり、思わずフリングス将軍の方を見ると
「 ………すみません、 」
謝られた。
暗くてよく分からないけど、多分真っ赤な顔をしているんだと思う。恥ずかしそうに私の手の上から多分乗っていたであろう自分の手を顔に当てて困ったような顔をしているのだから。抑えた顔とは別にまた、
「 フリングス将軍の銀髪は月夜に映える綺麗な色をしているんだな 」
「 ! 」
純粋に褒めてみたくなって、隠した言葉を吐いてみると胸のうちがスッキリする。爽快感。それと同時に顔を上げたフリングス将軍の目はしっかりと私を見ていた
「 常磐は、それ以上言わないでくれ、 」
「 フリングス将軍? 」
動揺してます。
とばかりのフリングス将軍を見ながら
「 わかりました 」
ともう一度月を見上げた。
12/0920.
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