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爾城夜さんより




※学パロ




指先の魔法




円堂守はヒロトの憧れだった。
いや違う。円堂はヒロトだけの憧れではない、クラス中の、学校中の憧れだったのだ。かといって円堂はマドンナという訳でもない。円堂は、正真正銘の男だった。サッカー部のキャプテンで性格もいいとくれば、憧れる以外に何が出来るだろうか?この学校に、いや、世界の何処にも彼を嫌う人は居ないだろう。
そう、ヒロトは常々思っていた。

その円堂守に、ヒロトは小学生の頃から憧れていた。円堂守は昔からサッカーが好きで、サッカーの守くんと呼ばれるぐらいのサッカー馬鹿だった。
そんなサッカー馬鹿な円堂とヒロトは、全く接点が無い。隣の席どころか、同じクラスになった事も今まで無かった。廊下で時々擦れ違うぐらいにしか、きっと円堂の頭の中にヒロトは居ない。
そう、全てはヒロトの一方的な憧れだったのだ。





いや、憧れなんて手ぬるいものでは無い。

















これは恋だった。









――――――――――




「お、おはよう円堂くん!」
「ヒロト!おはよー」


言えた、とヒロトは心の中でガッツポーズをする。今朝もヒロトは円堂の写真に向かって挨拶の練習をした。何度もおはよう、を繰り返して、それでも本物を目の前にすると吃ってしまう。何時かちゃんと言える事が出来たらというのが、ヒロトの目標だ。

ヒロトは片想い八年目にして、漸く円堂と同じクラスになる事が出来た。
新学期になって今年も自分の名前は円堂とは別の紙にあるのだろうと溜息混じりに見たところ、あったのだ。円堂守のすぐ下に、基山ヒロトの名前が。気付いた時は嬉しさのあまりに倒れてしまったが、まぁそこはいい。円堂と同じクラスになれたという事が、ヒロトには一番重要な事だった。
クラスが同じという事は、席が近くになる可能性も高いという事だ。しかしまぁ、神様というのはいっぺんに願いを叶えるという事はしないらしい。最初の席替えは円堂と同じ班になる事すら、叶わなかった。いや、それでも良かった。ヒロトは円堂が同じクラスにいるというだけで、満足だったのだ。
それからというものなかなか席替えで同じ班になる事は出来なくて、欲張ってはいけないと何度も思い、少しの希望を捨てかけた最後の席替え、やっとの事で円堂と同じ班になれたのだ。
しかも、隣の席に。


『宜しくな基山!俺、基山と話してみたかったんだ!』


そう言われた時のヒロトは、いうまでも無いだろう(勿論倒れた)。
それからヒロトは円堂と仲良くなり、円堂がヒロトの事を名前で呼ぶまでにそう時間は掛からなかった。
今のヒロトは、正に幸せの塊だ。








「もうすぐ授業始まるよ、円堂くん」
「あ、サンキューヒロト!忘れてた!」


いそいそと授業の準備を始める円堂を横目で微笑ましくヒロトは見守る。隣に居るだけで、ヒロトは幸せだ。これ以上の幸福だなんて求めてはいけないだろう。


「あ、」


小さな呟きが聞こえて、どうしたの、とヒロトが声を掛けようとして、その原因がすぐに分かった。ヒロトの上履きにこつん、と何かが当たり、まじまじと見たところ、それは消しゴムだった。円堂とでかでかと名前が書いてある点から、持ち主は円堂だという事は明らかだ。


「ヒロト悪い!取ってくれ!」


ヒロトの足元にあるなら頼んだ方が早いからだろう。円堂が目の前で手を合わせてお願いのポーズをするのを見て、ヒロトはくすりと笑い、分かったよ、と返した。
足元の消しゴムはすぐに拾えて、少し付いた埃を払い落としてから、円堂に向けて差し出す。


「はいどうぞ」
「ありがとなヒロト!」


にかっと太陽の様な笑みを浮かべて礼を言う円堂に、ヒロトは一瞬目眩がした。そしてくらくらする中、円堂の手の上に消しゴムを乗せた。





その時、一瞬だったが手が触れた。










(!)










ばっと手を離す。
ほんの一瞬だったけれど、確かにヒロトは指先に、円堂の手のひらの熱を感じた。


「ご、ごめん…!」


かあっと頬が熱くなる。ヒロトの顔は異常な程に真っ赤だった。


「…どうしたんだ?」


急に離された円堂は不思議そうに首を傾げていて、ヒロトは焦っていた気持ちを落ち着かせようとした。心臓はばくばくと煩くて、今にも爆発しそうだ。
顔の赤いヒロトを見てか、円堂は心配そうにヒロトの顔を覗き込んでくる。それで更に、ヒロトの心拍数が上がった。


「具合、悪いのか?」
「ううん。なんでもないよ」


大丈夫、と笑って返せば、円堂はまだ少しだけ心配そうにヒロトを見て、消しゴムをペンケースへとしまった。

やってしまったな、とヒロトは思った。あのタイミングで、手を咄嗟に離すべきでは無かった。円堂は絶対に不自然に感じている筈だ。そう考えるとさっきまでのどきどきも消えて、一気に萎えてしまった。本物に気分が悪くなってしまって、机に突っ伏す。ああ消えてしまいたい、とヒロトは頭の中で思う。穴があったら入りたいっていうのは今使うべき言葉だね、と親友である緑川の顔を思い出しながら思った。
















「ヒロト」


名前を呼ぶ円堂の声が聞こえて、ヒロトはそっと顔を上げた。横を見れば円堂は前を向いていて、ヒロトの方は見向きもしない。怒らせてしまったのだろうか、と少しの不安が出てくる。


「ヒロトは、俺の事嫌いなのか?」
「っ違うよ!」


大きな声をヒロトが出す。教室内はまだ騒がしかったから、ヒロトの声はたいして目立たない。近くに居た女子が驚いて振り向いたぐらいだった。
円堂は相変わらず前を向いていて、少しもヒロトの方を見ずにそうか、と頷いた。まだ気にしているのかとヒロトは心配になったが、円堂の呟きで、全ての不安は打ち消された。















「俺、ヒロトの事好きだから…嫌われてなくて良かった」















ぽそぽそと聞こえた言葉に、驚いて思わずヒロトは立ち上がる。「それってどういう意味?」という言葉は、ヒロトの口から出る事は無かった。

















チャイムが鳴った事と、それから首まで赤く染まった円堂の横顔を見たら、言えなかったのだ。











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チャコールゴシックの空の爾城夜さんから、フリリクでヒロ円の学パロをリクエストさせていただいたらこんな素敵な小説を頂きました…!!
ぎゃー!!ヒロ円かわいすぎるー!!///最初はヒロまじ天使…!と思わせておいて最後はまもたんまじ天使!!さすが!!素敵な小説をありがとうございました^^*


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