稲妻SS | ナノ

明朝体で書いてよ




昼休み、ヒロトは円堂に授業中のメールで呼び出され屋上に来ていた。
だが円堂のクラスはまだ授業が終わっていないのか屋上にいるのは自分だけだったので、フェンスに寄りかかって待っていると、後ろから大袈裟な音がしてドアが開いた。


「悪い!遅くなった!」


ぜえはあと息を切らして走ってくる円堂に、ヒロトはくすりと笑って歩み寄る。


「いいよ、あんまり待ってないし。…それにしても、君から呼び出しなんて珍しいね。円堂くん」

「へへっまあな!」


いつもはヒロトが一緒にご飯を食べようだの一緒に帰ろうだの、何かと理由をつけて会おうとするのだが、今回は珍しく円堂から会おうと言われたのだ。

もしかして、やっと自分の気持ちが伝わったのか。そして実は両想いでした、なんてことになるのでは…。
円堂相手に期待は無駄だと分かってはいても、期待せずにはいられない。

平静を装ってはいても、心臓はうるさいし、期待も妄想も止まらない。


「実はさ、俺、ヒロトに言いたいことがあってさ」

「うん」

「でも、言葉じゃ上手く伝えられない気がしたから、さ」

「うん」

「手紙…書いたんだ」

「!」


ごそごそとポケットを探り、手紙を取り出す円堂。
ヒロトは円堂から手紙を貰えることに感動して涙が出そうなのを必死でこらえた。


(円堂くんが!俺のためにペンを取り!手紙を書き!便箋を折って封筒に入れた…!俺のために!俺だけのために!!しあわせ!!)


溢れそうな幸せを唇を噛みしめてこらえ、心の中では何度も神や仏に土下座をしてお礼を告げてまわった。


「じゃあ、これ…。あ!一人のときに読んでくれよ!絶対だぞ!」


円堂は手紙を渡し、一方的に喋って走り去って行った。
心なしか顔も赤かったような気がするのだが、ヒロトは自分の涙でよく見えなかった。

期待は駄目だ。そう思いながらもこれはラブレターなんじゃないかと考える。
いやいやいや、まさか彼に限ってと頭を振るが、違うとしたら何なのだろう。気になって仕方ない。


(よし、円堂くん親衛隊に邪魔されないうちに読んじゃお)


まわりに誰もいないのを確認して、慎重に封を開ける。
中から真っ白な便箋を取り出して広げるとそこには…。





解読できないほど汚い文字が並べられていた。



(よ、読めないよ!円堂くん!)




伝わらない言葉




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title by 207β


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