稲妻SS | ナノ
好きすぎて
「好きだよ、円堂くん」
そう言うなりヒロトは俺に抱きついてきて、ぐすぐす泣き始めた。
抱きつくというよりはタックルに近かったそれに後ろに倒れそうになったが、何とか足に力を込めて耐えた。
突然のことに驚いたけれど、少しでも落ち着けるようにとあやすように背中をぽんぽんとたたいてやる。
「ヒロト、どうしたんだ?」
「っごめ、んね。何か…自分でも、わかんないや」
「そっか」
背中をたたいていた手をヒロトの頭まで持っていき、優しく髪を撫でるとヒロトが腕の力を強めた。
ちょっと苦しかったけど、泣いてる相手に気を遣わせたくないから、あえてそれを口にすることはなかったけれど。
だいぶ落ち着いたのか、ヒロトがごめんねと小さく謝りながら腕を解く。
泣き腫らしたあとの目でも、ヒロトの瞳は綺麗だとおもった。
「不安になるんだ」
「不安…?」
「円堂くんが、誰かのものになっちゃいそうで、こわいんだ」
じわり。またヒロトの目に涙が浮かぶ。
俺が誰かのものになるって、どういう意味だろう。
サッカーのことしか考えない脳で必死に答えを探す。
でも答えは見つからなかった。
「…よくわかんないけど、俺は誰のものにもならないぜ!」
ヒロトを元気付けたくて、なるべく明るい声で言ってみる。
なのにヒロトはまた泣きだしてしまった。
なんで?…俺、なんかまずいこと言ったかな。
どうしよう、どうしよう。
「ヒ、ヒロト…?」
「好きだよ、円堂くん。っ、君が、好きです」
ああ!俺も好きだぜ!
そう言うはずだった言葉は宙に消えた。
なぜなら、俺が言うよりも早くヒロトの顔が近付いてきて、唇で口を塞がれてしまったのだから。
「なッ、なななな…!」
「だから、」
俺のものになってよ!
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