稲妻SS | ナノ

夏の思い出/ヒロ円




8月31日。今年もこの日が来てしまった。俺が毎年苦しむ日だ。


「なあ豪炎寺ぃーっ!頼むよ〜俺このままじゃ宿題終わんねぇよ〜!!」

「すまない円堂。今日は夕香の宿題を見てやっているから手伝えそうにない…」




「って豪炎寺に言われてさあ〜!鬼道!お前なら手伝ってくれるだろ!?」

「俺も今春奈の宿題を見てやってるとこでな…。悪いが協力できない」

「そっ、そんなぁ〜!!」




夏休み最終日。終わると思っていた宿題は全く終わらず、円堂は手伝ってくれそうな人・また手伝ってくれなさそうな人にも手当たり次第に電話をかけたが誰一人として捕まらなかった。

初めに期待していた友人二人に断られ(このシスコン共!)次に風丸や吹雪に声をかけたが用事があるとかで断られ、染岡や不動には自業自得だと言われ。電話だけで30分は時間を無駄にしてしまった。


(残るはヒロトだけか…)


携帯のアドレス帳からその人物を選び電話をかけると1コールで出た。早い。


「もしもし!円堂くんから電話なんて珍しいね嬉しいよ!どうしたの!?」

興奮した様子でヒロトが早口で喋る。何故か後ろではガチャンバタンと騒がしい音がしているが気にせず話を進めた。


「じ…実は宿題手伝ってほしくて…。もうお前しか頼める人いなくてさ、頼むよ―!」

「もっ、もちろんだよ!他でもない円堂くんの頼みだしね。残ってる宿題全部持って俺の家まで来てくれるかい?」

「うわあああやった―――!サンキュ!すぐ行くから!じゃあまた後でなっ」


電話を切ったあともう一度「やった―――!」と叫び、一階にいる母にうるさいと言われてしまったが円堂は上機嫌で残りの宿題を鞄に詰め込んだ。(その頃ヒロトも同じようにやったーーー!と叫び、南雲にうるさいと言われていた)





***





「お邪魔しまーす!」

「どうぞ。俺の部屋2階上がってすぐだから先に行ってて。飲み物持って行くよ」

「おう、ありがとな!」


ヒロトの家の場所は知っていたが実際入るのは初めてなので、本人が居ないのをいいことにキョロキョロと部屋を見渡す。よく整理された綺麗な部屋だ。

いろいろと興味を引くようなものがあったが、さすがに人の部屋を漁るようなことはできなかったので大人しく待つことにする。


「お待たせ。じゃあ円堂くんは数学とか国語とか俺のを写せるものをしてて。俺は作文とポスターをやるよ」

「ううっ、ありがとう!ヒロトはほんとにいい奴だなぁ」

「ふふ、俺が優しいのは円堂くんにだけだよ!」


にっこり。有無を言わさない笑顔で言われた。そんなことないさと言おうと思ったがヒロトの笑顔に気圧され「そうなんだ」と苦笑いをしておく。

―――黙々と宿題をやり始めて早2時間。ヒロトが出してくれたオレンジジュースも底をつきかけていた。円堂の集中力はとっくに切れていたが、ヒロトは真剣な眼差しでテキパキと宿題を片付けている。


「ヒロトぉー。ちょっと休憩しようぜー…」

「円堂くんは休んでていいよ」

「ヒロトは?」

「俺まで休んじゃ夜までかかっちゃ………あっ!何だか疲れちゃった!やっぱり俺も休憩するよ!」


…さて、基山ヒロトの考えがお 分 か り い た だ け た だ ろ う か 。

短い時間で宿題を終わらせ円堂からの好感度上昇を狙っていたのだが、作戦変更だ。なるべく作業を長引かせ、少しでも長く円堂と一緒に過ごそうというヒロトの下心見え見えの計画に移る。

そんなことは全く知らない円堂は、残りのオレンジジュースを全て飲み干し、何故かそわそわしているヒロトに視線を向けた。


「ヒロトってさ、ほんといい奴だよなぁ」

「えっ、そんなことないよ」

「そんなことある!」


どん、とテーブルを叩くとヒロトのコップの中でオレンジジュースが大きく揺れて焦った。零れはしなかったが一応小声で謝ったあと話を続ける。


「だってさ、貴重な夏休みの最終日を俺の宿題なんかで潰して…。文句くらい言ったっていいんだぜ?」

「文句なんてないよ!むしろ俺は夏休み最終日に円堂くんと二人きりで過ごせて嬉しいくらいさ」

「でも……あっ!じゃあせめて何かお礼するな!何が欲しい?つっても…高いものは買えないんだけど、さ。あはははー…って、おーい。聞いてるのかーヒロトー。おーい」


ヒロトの目の前を手で上下にひらひら動かしてみるが、ヒロトは目を見開いて口はぽかんと開けたままフリーズしていた。


(お礼お礼お礼お礼お礼お礼お礼お礼お礼お礼お礼お礼お礼お礼お礼お礼お礼お礼お礼おれいおれいおれいおれい円堂くんが俺にお礼円堂くんが俺にお礼円堂くんが円堂くんが円堂くんが円堂くんが円堂くんが円堂くんが俺のために俺だけのためにお礼…)


「ちょ、ヒロトどうしたんだ!鼻血が!!」

「ああ、こんなのは舐めとけば治るよ」

「鼻血を!?綺麗にはなっても治りはしないぞ!多分!ほんとにどうしちゃったんだ!?」


円堂は本気で心配するが、ヒロトは鼻血を垂らしたまま笑顔で何でもない、何でもないよと言うだけだった。
その後宿題を再開したのだが、ヒロトはお礼の内容について妄想を膨らませてばかりで作業がまるで手につかずミスばかりしていた。


「ちょ、ヒロト読書感想文は5枚以下だぞ!それもう20ページ超えてる!しかも円堂守の100の魅力ってどんな本だよ!」

「あっ本当だ、手が勝手に…!あとこの本は俺が自費出版した本なんだ」

「お前スゲーな!?」


その他にも、税の作文を書いていたはずがいつの間にか円堂と自分の馴れ初めについて語りだしている内容だったり、自画像は写真かというくらい忠実に円堂を描き上げた上に、ちゃっかり横にヒロトの顔も描き、わけのわからないことになっていた。





「でもまあ…何やかんやで終わったぞー!!」

「ふふ、お疲れさま」


時計の針は夜の10時を指している。円堂はゲッ、もうこんな時間じゃんと慌てて片付けに入った。
ヒロトの予定では日付をまたぐくらいに終わるはずだったのだが、円堂の頑張りもあり予想外に早く終わってしまい内心残念に思っていた。


「こんな時間までごめんな、ほんっと助かった!ありがとう!」

「ううん、円堂くんの役に立てて良かったよ」

「へへっサンキュ!じゃあ俺帰るな。また明日」


そう言って部屋を出ようとする円堂に待って、と声をかける。
振り向いた円堂のきょとんとした顔が愛らしすぎてヒロトにはとても直視できず、視線を彷徨わせる。


「どうしたんだ?」

「あの、あのね、今日言ってたお礼のことなんだけど、」

「お礼……ああ!何かリクエストあるなら何でも言ってくれよ!」

「じゃあキスして」



………一瞬、時が止まった。

円堂は最初に自分の耳を疑いヒロトに「ごめん、もう一回言って?」と言ったが先程よりハッキリと「キス、してほしいな」とにっこり言われてしまった。

次に円堂は、ヒロトは自分の性別を勘違いしているのだと思い「えっと、俺、男なんだけど」と言うと、何を今更とでも言うように「そうだね」と言われた。

次に円堂は、ヒロトの言うキスと自分の思うキスは別物なのかもしれないと思い「キスって、」と言うと円堂の言葉に被せてヒロトが「口付けのこと」と言った。

どうしたもんかと考えこんでいると、ヒロトが控えめに尋ねる。


「やっぱり駄目、かな」


あからさまに落ち込みしゅんとうなだれている様子に円堂はウッと戸惑う。


「今日、頑張ったんだけどな」


視線を落としはぁ、と溜息をつきながらそんなことを言う。


「でもそうだよね、いくら俺が頑張ったって無理強いはできないもんね。あ、ぺんだこ…」
「だーっ!分かったよ!やるよ!キ、キスくらい!」


半ばやけくそに叫ぶとヒロトの肩をガッと掴んだ。
ヒロトは期待に満ちた目をゆっくり閉じ、円堂からのキスを待つ。
しばらくすると頬に触れたか触れないかくらいの唇の感触がし、円堂はバッと体を離す。



「か、帰る!おやすみ!」


ガチャンバタンと慌ただしく円堂は部屋を出て行き、火照った顔を冷ますかのように階段をものすごいスピードで降りていく。
ヒロトはというと、言うまでもなく大量の鼻血を出し失神していた。





( ダイイングメッセージは「天使」 )




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