宮風
「風丸さあーん!」
「宮坂」
部活帰り、自販機の前でジュースを選んでいたら、陸上部の後輩が嬉しそうにぶんぶんと手を振りながらこっちへ来た。
「今帰りですか?」
「ああ」
「じゃあっ、俺も一緒に帰ってもいいですか!?」
「いいけど…お前の家あっちじゃ、」
「やったー!!風丸さんと帰宅デートだー!!」
宮坂はわざと俺の言葉に被せるように声を張り上げた。
こいつは前から自分に都合の悪いことには耳を塞ぐような奴だった。まったく。あとデートではない。断じて。
俺は自販機のボタンを押してガコンと音をたてて出てきたコーラを拾い上げる。
自分だけ飲むのは気が引けたから宮坂に何か飲むかと聞いたのだが、遠慮しているのかものすごい勢いで首をふりながら断られた。
「なんだよ。後輩にジュースくらい奢らせろよ」
ほら、と笑いかけると宮坂は赤く染まった顔を隠すかのように俯いた。
覗きこもうとすると、その前にがばっと顔をあげてこう言った。
「ジュースはいいんで、風丸さんが欲しいですっ!!」
宮坂よ、それは俺が120円の価値だということか。