ヒロ円
「はぁぁああ円堂くぅぅうううん!」
「やめろってヒロト!マジで!ほんとに…あーつーいーかーらぁぁぁッ!!」
練習が終わって着替えるために更衣室へ行くと、ヒロトが鼻息荒く抱き着いてきた。
抱き着くのはいい。だが、今は練習後ということで、ものすごく暑いのだ。いくらヒロトみたいな体温のなさそーなヤツでも、くっつかれるとやはり暑い。
「円堂くんの汗のにおい…!はあはあ」
「ちょ、嗅ぐな!あと暑い!ほんとに暑い!」
「あっ…!俺としたことが気づかなくてごめんね!服脱がせてあげるよ。はあ…はあ…」
「いい!いいって!自分でするから!はーなーれーろー!!」
いつもなら風丸とか立向居がヒロトを引っぺがしてくれるのだが、今日は俺が遅くまで練習していたからみんな先に宿舎に帰っているのだろう。俺とヒロトの二人きりだ。
ヒロトはまだ俺の服を掴んで離さないので、少々申し訳ないが無理矢理手を外して素早く距離をとる。
この暑さの中あんなにくっついてるのに耐えられなかったんだ。
「………ぐすっ…円堂くんは、俺のこと嫌いなの?」
あ、泣き真似だ。と思った。何故だか分からないがヒロトはよく泣き真似をする。初めは毎回騙されてたんだけど、結構な回数を重ねていくうちにさすがに見破れるようになった。
だから、たまには俺も泣き真似をしてヒロトをからかってみようと挑戦してみた!
「ヒロトこそさっきから俺の嫌がることばっかして…、俺のことほんとは嫌いなんじゃないのか?」
すん、と鼻をすすりながら言ってみる。騙されたかな?と思ってちらりとヒロトの顔を覗いてみて、俺はぎょっとした。ヒロトが、怖いくらい無表情なのだ。
「ひ、ひろ」
「円堂くん」
「っ、!」
名前を呼ばれ、肩を掴まれる。こんなヒロトはあまり見たことがない。何を言われるんだろうと身構えていたら、ヒロトは真剣な表情で肩を掴む力を強める。
「俺が円堂くんを嫌うとか、それだけは、ないから」
「ヒロト…」
少しジーンときたのだが、何かがおかしい。そう、いつの間にかヒロトの手が移動してて、俺の尻を触っていたのだ。
「だから俺がどんなに円堂くんが好きか今から証めぐはあっ!」
ヒロトが何かを言いかけたところで、疾風の如く現れた風丸のドロップキックが決まり、ヒロトは俺の目の前で吹っ飛ばされた。
「か、かぜま」
「…証明できなかったな☆可哀相に」
そう言った風丸の顔は、可哀相だなんて微塵も思ってないほど清々しい笑顔だった。