Heart:5


背の高い彼が覗き込むように屈んでくれたり、優しく目を細めて笑った姿が繰り返し繰り返し頭の中で再生されてしまうのは、苦痛で仕方なかった。

絶対に敵わない、引き止める素直な心すらもってないわたしを選ばないなんて、当然と言えば当然だけれど。

けれど、こんなわけのわからない世界に落とされてからは、ずっと慌ただしくて驚くことの連続で、思い出す暇なんてなかった。

遊園地を一通り楽しんだり、たまにお手伝いをさせてもらったり、黒子くんと本を選びに出かけたりしてるうちに、疲れて眠って。規則正しく時を刻まないこの世界に、いい加減身体も慣れてきたと思ったらこの仕打ち。

微温湯の中で毎日を過ごすわたしに、あざ笑ってる誰かがいるんだわ。


時計塔を目印に街へと向かって歩く。
朝、夕、朝と続いて、そろそろ夜がくるかもしれない算段をたてる。次の時間帯までには遊園地にたどり着いて一度睡眠をとりたかった。

結局、せっかくひとりで出歩いたというのにこれといった収穫もなく、賑やかな園内を横目にわたしはすぐに自室で横になった。



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