Heart:2
「心配しなくても、この世界ではみんな君を好きになる」
夢の中に出てきた夢魔は、いたずらっぽく笑うとそれだけを言い残して消えてしまった。否、わたしを目覚めさせた。
まるでわたしが、誰からも愛されたいと願っているみたいな言い方だ。今度夢であのタツヤとかいう奴に会ったら一言進言しなければ。
みんなに愛されたって意味ない。たったひとりに好きになってもらえなければ、満たされることなんてない。
胸がギシギシと締め付けられる。大人の余裕を持って微笑む彼の姿を思い出し、けれど懐かしむ気持ちを感じる間もなく、いっそう心が軋んだ。
彼の視線の先で美しく、そして可愛く微笑む姉にわたしは一生なれっこない。
大好きな姉さん。きっと突然いなくなったわたしを今頃心配しているかもしれない。ううん、あの優しい姉のことだ。絶対に心配をしているに違いない。
はっと気づいた時には遊園地から随分離れた場所まで来てしまっていた。考え事に気をとられ、街から外れている森に足を踏み入れている。
ここは遊園地の、木吉さんの領地ではない。
「お姉さん、こんなところで何をしているの?」
帰らなければ、早いうちに引き返そうと踵を返すと、そこには身の丈ほどの大きな斧を持つ双子がいた。
斧の鋭さに声をあげるよりも、咄嗟に後ずさってしまった。
「逃さないよ」
「泥棒?」
「怪しい人かな」
「ボスの客かも」
「悪い奴には見えないけど…」
後ずさった事で逃亡しようとしていると思われたらしい。鈍く光るふたつの斧が首もとを捉え、恐怖で身体が強張るけれど、急いで弁解をする為に口を挟む。
「ちょ、ちょっとまって!わたしは泥棒じゃないわ!ただの通りすがりよ!」
一体、どんな危険な領地に足を踏み入れてしまったというのか。
この不思議の国が、銃弾飛び交う世界だとはいえ、初対面で斧を向けられる自体なんて今まではなかった。
「人は見かけによらないっていうし」
「嘘ついてるかも」
「ヤっとく?」
「ヤるなら見つかる前だね」
「報酬上がるかな」
「休暇ももらえちゃうかも」
あまりにも物騒な応酬に背筋がひやりとする。
「そんなに痛くないよ、ね 兄弟」
「サービスで無料で楽にしてあげようか、兄弟」
「そうだね、かわいいお姉さんだし」
「それくらいはしてあげるよね」
同じ顔で、同じような声で代わる代わる喋られて頭がクラクラする。
報酬や休暇の為に殺されるなんて冗談じゃないわ!
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