Heart:8
善は急げとばかりに遊園地を飛びたしたわたしは、
「きゃっ?!」
「うぉお!」
がさがさという草の間から出てきた人に危うくぶつかるところだった。
遊園地から出て数分、時計塔に向かう道すがら、森の中を歩いていた。もちろん、帽子屋の領地に入ってしまうなんていう失態は犯していない。
まだまだ遠いけれど、視線の先には時計塔が見えているし、特に警戒するべきことなどひとつもない。
だというのに、道ではない所から人が現れた。
「ごめんごめん!まさか女の子とぶつかるなんてな〜」
本当に悪いと思っているのか怪しい所だ。きちんとした身なりをしている割には体のあちこちに葉っぱをくっつけている。
「随分と急いでいるのね。こちらこそ立ち止まらせてしまって悪かったわ」
道を譲ろうと身をひくが、慌てている様子は一切見受けられず、随分とマイペースな性格の様だ。
「急いでるって程でもねーんだけど、呼び出しくらったのオレだっつーのに、年がら年中時計触ってるせいか時間に煩くて。たまんねーや」
「時計って…まさかあなた時計塔に向かっているの?」
「ん?そうだぜ?時計屋の緑間に呼ばれてる」
親近感が一気に沸いた。
あまりの偶然の出会いに、わたしの背後では花が舞っているに違いない。
「わたしの目的地も時計塔なの!その、緑間って人に聞きたいことがあって…」
私を塔から放りやがった眼鏡陰湿野郎に…!
「マジで?!オレしょっちゅう行ってるから道案内するよ!一緒に行かね?」
「ぜひ喜んで!」
この時のわたしはまだ気づいていなかった。
…彼が重度の迷子癖があるということに。
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