◎バトンタッチ
「花宮くん、体育祭、何の種目出るの?」
「その話題ひっぱりすぎだろ」
部活の10分休憩。いろははバインダーで口元を隠しながら、何を恥ずかしがる必要があるのか全くもって理解不能だと野次を飛ばす山崎に、見事な回し蹴りをいれ、結果床につっぷすはめとなった。
テメー!スポーツマンの身体に怪我したら云々。さらりとスルーしたいろは
は再度、伺うように花宮を見上げる。
首筋を伝う汗が色っぽいなと思う顔色はほんのりと蒸気しており、このむさ苦しい体育館とは真反対のベクトルを生み出していた。
「100メートルと男女混合リレー」
ぐいっと汗を拭いながら先日のクラス会で決まった自分の種目を述べる花宮は、そういや再来週からはじまるバトン練習が始まることを思いだしうっとおしそうな表情を見せる。
眉根を寄せる花宮の顔を、心のシャッターに収めるいろは。その様子をさらに山崎がげっそりした顔で見ることとなる。
こいつ、他クラス応援しかねねぇな。
「つか混合出んの?俺もだ」
いろはと山崎のクラスも先日種目決めをしたところ、リレーの選手決めで満場一致で山崎の名前が上がったのはいろはの推薦のおかげでもあった。
彼、頭は足りないけれど脚力は信頼できますよ、の一言で賛同の声がいくつも上がったのだ。
「山崎くん、ごめんね。わたしは花宮くんのこと応援するけど、決して山崎くんが負けろなんて一ミリも思ってないよ」
にこやかにさよならと手をふるいろはに、殺されなかねない。
クラスで2番目に脚の早かった山崎だが、実際花宮と走って勝負したことはないものの、おおよそ勝てる気はしなかった。常日頃の行いのせいで、度々忘れがちだが曲がりなりにも無冠の五将と呼ばれるだけあって、花宮の身体能力はずば抜けているのだ。
「いいな〜私も花宮くんからバトン、受け取りたいな」
「受け取ってどうする。」
古橋のツッコミと共に、休憩時間の終了を知らせるブザーが体育館に鳴り響いた。
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