アニメーガス


いろはがホグワーツ魔法魔術学校への入学が決まっても、花宮があれこれとホグワーツや魔法に関して進んで教えてくれることはなかった。いろはの方から聞けば答えてくれなくもないのだが、いろは自身、そもそも何を知らないのかすら知らないので聞きようもないのだ。その為にまさかホグワーツという学校は4つの寮に分かれており、それを公衆の面前で振り分けられるなどいろはにとって思いもよらぬ出来事であった。

けれど入学前に花宮から改まって注意を受けたことがひとつだけあった。それは”アニメーガス”に関する事である。

「アニメーガス?」

「詳しくは嫌でも勉強する。とにかく’あの事’は誰にも言うな。」

アニメーガス…“動物もどき”と言われる能力は、入寮してまっさきに図書室で調べた単語となった。いわゆる動物に変身出来る能力なのだが、20世紀中に魔法省に登録された動物もどきは7名しかいないとされている。21世紀に入ってからはまだひとりも登録されていないのだ。いろはがこの本で得た知識は、「誰もが手軽に人の思考を保ったまま動物に変身することは出来ないこと」と「真くんが非常に優秀かつ非合法のパターン」であるという事だった。

これは想像以上にいろはにとってはびっくりした事実だった。魔法使いだからといって誰もが簡単になんでも出来るわけではないという事は、逆にいえば花宮の魔法使いとしての能力はトップクラスといって過言ではない。

「秘密って事は、学校内では真くんはもう私には会いにきてくれないってこと?」

いろはがマグル界の孤児院でひとりでこっそり泣いていると必ず花宮は動物の姿で孤児院に忍び込み、次の瞬間には元の人へと姿を変えていた。はじめこそ驚いてはいたが、だんだんと回数が増えるに連れて当たり前の事となっていた。花宮のいう’あの事’とは、一瞬で動物へと姿を変える事をいろはの目の前でやってのけた事だろう。

「ここは孤児院じゃねーんだからわざわざ姿変えて会う必要はねぇだろ」

ため息と共にあの時は返され、それもそうだなと納得していたいろはだったが、今とあの時とは状況が違う。いろははまさか、ホグワーツが4つの寮に振り分けられ、それを軸に生活していく事すら知らなかったのだ。ホグワーツの寮とは家であり、そして同じ寮の仲間とは家族も同然として生活する事となっている。


「グリフィンドール!」

組み分け帽子が声高々に叫んだこの寮こそ、これから7年間のいろはのホームとなり、居場所となる。縦長い4つある机のひとつから歓声が上がり、いろはは暖かく歓迎してくれる上級生に促され席についた。しかし、いろはから向かって左の方にちらりと見えた花宮とは明らかに違う寮である事はいくらテンパっていても理解出来た。

(私が魔法を使う才能がないから花宮くんとは同じ寮に行けなかったんだ…!)

ホグワーツに入学すれば、花宮と四六時中とまではいかなくても前よりもずっと長い時間を過ごせると思っていたいろはにとっては、初日から大誤算となった。



「…花宮、まさかホグワーツの寮の説明とかしてあげなかったのか?」

「してねーよ。フェアじゃねーだろ」

「彼女、スリザリンに入りたいって思っちゃうから?」

食卓に並ぶパンプキンジュースを飲む原の口元はにやりと口角があがる。

「組み分け帽子は時として本人の意志が大きく反映されると言われている。」

対照的に無表情のままの古橋は、しゅんと気落ちした様子をわかりやすく示しているいろはを真っ暗な瞳で捉えている。気の毒だなと他人事の様につぶやいているが、古橋にしてはめずらしく同情が含まれている方だ。

「スリザリンって柄じゃねーな、あの様子じゃ。7年過ごすんだから自分のあってる寮の方が彼女も過ごしやすいだろ。」
「変な誤解してなきゃな」

あとでフォローいれとくかと考えた花宮は、水の入ったグラスをぐいっと煽る間に、すでに会いに行く算段はつけ終っていた。



戻る
top
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -