蛙チョコレート


コンパートメントにいると、真っ暗な瞳の男の子がやってきました。

「おい花宮さっき原が・・・・ってあれ、あんた」

魚の目をした様な彼は、花宮へと向けていた視線をいろはへと移す。表情の読み取れない顔に独特な瞳。突然の来訪によってそちらへと意識が逸れたいろはは、結果的によそ見をしながら開けることとなった箱から、勢い良く何かが飛び出していった。

「え、うわっ!?」

その何かは来訪者の真横を飛んで、扉のガラス窓に張り付いた。
カエル。正確に描写するならチョコレート色のカエル。
予想外の出来事にびっくりしたいろはまさかカエルが飛び出してくるとは思わず、逃げ足の早いその“チョコレート”を凝視することしかできなかった。

ちっという舌打ちと同時にコンパートメントの中心に杖が構えられる。
花宮が軽く杖をふると、ぺたぺたと逃走を図っていたカエルチョコはぴたっと動きをとめ、ただのカエル型チョコレートへとなってしまった。

「それで、なんの要件だよ古橋。」

呆然としながらカエル型チョコレートを剥がすいろはを横目に、同級生である古橋に続きを促した。
ああ、と言った彼は今しがた目の前の一連の出来事に驚いているのかいないのか、全く読み取れない表情で花宮へと向き直る。

「すまない、偶然にもお目通りがかなってしまった。」

“いろは”という少女に。
彼女こそが、花宮の言っていた出身不明のマグル育ちの魔女か。
珍しく花宮がひとりの女の子に世話をやいていると瀬戸が言っていたから、原も躍起になって見たがっていたが、これは想像以上に近寄るのは難しいそうだな。

珍しいなんてもんじゃないな。前例所か、他人を気にかけることすらしないのが花宮真という魔法使いだ。
昨年の学期末で、ひーひー言いながら課題をこなす山崎や原を面白そうにただ眺めていただけの男だ。死に物狂いで課題をこなす二人(と、同僚が溢れる中)、我関せずと花宮はチェスをしていた談話室での光景は、そうそう忘れられるものではなかった。


「だがまさか・・・コンパートメント内がお菓子で埋め尽くされていようとは思わなかったな。」

大量のお菓子の中心でにこにこ笑ういろはを見て、古橋は苦笑いを零す。

「歯磨きしなくていいお菓子って売ってないのかな?」

これ買い与えたの花宮だろ、と古橋は内心でため息をついた。



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