9と3/4番線


いろはは幼馴染、というほど長い時間を過ごしてきたわけではいが、それでも確実に今一番頼りになるであろう花宮の姿を混雑するプラットホームの中から見つけようとしていた。

初めて来た9と3/4番線に、魔法使いで混雑するプラットホーム。
何もかも新鮮で、慣れない光景に、新学期の高揚感を上回った焦燥感をいろはは感じていた。

もしかして列車の中に既に乗り込んでしまっているかもしれない…

出発の時間まであと2分をきっている。そろそろ乗車しないと、まずいことになってしまう。比較的空いていそうな入り口から車内に入ろうと辺りを見回した時、後ろから声をかけられた。

「何してんだよいろは。乗り込まないとおいてかれるぞ。」

「ま、真くん…!」

よかったとほっと安堵の息をつくいろはに、花宮も思うところがあったのか、手を引きながら車内に連れたってくれた。


いろはに、特別な力があると指摘したのが彼、花宮真だった。
正直、いろはからしてみれば半信半疑もいいとこで、実際に魔法学校から手紙がくるまでは、「ちょっと他とは違うだけ」という認識程度で受け入れていた。

元々、周囲とは違い孤児院で生活する自分を悲観したことはなくても「普通」とは言いがたいと感じていたし、周囲との差異はその延長であると考えれば特別おかしなこととも思えなかったのだ。


「真くん、ごめんね・・・ありがとう。」

騒がしい車内にあるひとつのコンパートメントにいろはを先導した花宮は、多少の疲労感を伺わせるいろはを座らせる。

「だから一緒に行けばよかっただろ。」

念のためと思って車外に出てみれば、出発直前だというのにうろうろとしているいろはを見かけ、やっぱりと思わずにはいれらなかった。
一年前この混雑具合を体験している花宮には想定内である。


「うん。そうだね、でも・・・」

しばらく真くんに会えないご両親からしてみれば、家族水入らずがいいんじゃないかな。

最後まで言わず、いろはは言葉を濁した。私にも施設での親代わりの様な先生たちと挨拶があるように、真くんにだって・・・といろはは今日以前にも遠慮をみせ、結果断っていたのだった。


「私最初ね、入り口になってるレンガの柱、間違えそうになっちゃって、あやうく衝突するところだったよ」

みんなには秘密ねと照れたように笑ういろはを見て、今後絶対、何があっても、ひとりで出歩かせるのはやめさせようと誓った花宮だった。



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