07
友達曰く、文武両道でルックスもよく、人当たりの良い「花宮真」の存在は、近寄り難く、そしてお近づきになりたい、なんとも矛盾した存在だという。
あわよくば知り合いに、友達に。そう思わせてしまう彼の態度は一様に平等。
どこか色事にも淡白で落ち着いた雰囲気とやらが、横並びの男子高校生の中から飛び抜けて目立つらしい。
だからきっと、友達から力説されたその花宮真と、わたしのことを壁際に追い詰めて見下ろしてくる威圧的な花宮真は全くの別人なんだと思う。
目尻がぶわっと熱くなってぎゅっと目をつぶったわたしは、完全に選択肢を誤った数分前に戻って今の状況をなんとか出来ないか必死で思考を巡らせた。
二度目の再会をしたお昼休み、人目が気になるわたしはさっさと真くんの要件を聞くために距離を取って真くんの目の前に立った。
どうやらそれがお気に召さなかったのか、猫っ被りな笑顔をいっそう張り付けてこっちにくる。ひぃぃぃその笑顔の反動がこわい。
「有栖川さん、今時間大丈夫?」
時間は大丈夫。精神的には全然大丈夫じゃない。首を横にふりたいのに、条件反射とでもいう様にわたしは小さく頷いた。彼に対して拒否権がない。あったとしても有無を言わさず従えるのだろうけど。
とにかく人目が気になるわたしは、人の少ない実技教室ばかりの別棟へ行きたかった。真くんが察したかのように移動を始める。
恐怖のパラメーターがぐんぐん伸び上がって、いっそ引き返そうかなと後ろを向いたと同時に
「今朝みたいに逃げてみろ、今度こそ人目のある教室でブチかますぞ」
耳元ですごまれた。もうやだこわい。
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