◎持ち物(黄瀬)


「女の子たちの…騒がしい話し声とか、」

「うん?」

「高い笑い声とか、カラフルな化粧品とか、香水の臭いとか、俺結構すきなんッスよ」

「うん」

「女の子すきだし、柔らかいし良いにおいするし、そういうとこ以上にちょっとうるさいとこがすきなんっス」

頭に浮かぶ女の子同士特有、なんて言われる光景とは真反対の静かな教室の中で、黄瀬くんと向かいあいながら、彼がゆっくりと話す。


どちらかというと一般的に敬遠されがちな女の子の騒がしさを、彼はすきだという。
女である私ですら、煩わしいと思うはしゃいだ声が、高さが、空間が、心地いいと言っているのだ。

「ねーちゃん2人もいるから、家はいつも騒がしいけどそれくらいが丁度いいんスよね」

どこか困ったように話す彼は、指の上で綺麗にくるりとボールペンを回しながら、日誌を少し書き進める。

「…ひとりでいるの苦手なんだよ。誰かが隣にいてくれるとすげー安心すんの」

末っ子らしい発言にくすりと笑うと、むっとした顔された。

「さみしがりやさん?」

「…ひとりでもいられるし」

子どもっぽい言い回しに拗ねた口調がかえってくる。
なんだか今日の黄瀬くんは、雰囲気が柔らかくて話している内容もあいまって可愛らしい。

いつもきらきらと人を寄せ付ける笑顔を振りまきながら、どこか一線をひいて、さらに外側に分厚い壁をはっている彼とは別人みたいだ。

黄瀬くんとは、同じクラスではじめて席がえしてから隣になって、ようやく会話をした。
普段は全然話かけられるような状態ではないのだ。彼の周りからの指示は衰えない。

容姿、シルエット、才能、オーラ。彼の笑顔で全てが華やぐと言っても過言ではない彼自身の持っているものは、一般人が到底持てるものではない。

それでも、そんな黄瀬涼太にふと感じる虚しさ。
作ってない様に見せる笑顔、気取りすぎない、遠慮しすぎない加減の仕方。
自由であるかのように見せる仕草。

「黄瀬くんは、色んな持ち物人より持っているのに、欲張りなんだね。」

それでも足りなさそうな、飢えてそうなそんな表情。

「俺、無い物ねだり…なんスよ。あれもこれも、いいなって欲しくなるんだよ。だから、」

だから?

「だからこうやって必死に誤解を解こうと遠回しなこと言ってみたり、つけいる隙与えてんのに、全然引っかかってくんないし。」

「誤解をときたかったの?なんの?」

「そういうの、わざとやってんのか、駆け引きってもんなのか、全然わかんねーし」

付け入る隙、与えてたっけ?わたしに?
さみしい、ほしい、たりない、まさかそれが付け入る隙なわけ?

「なにそれ。黄瀬くんにあげれるもの、私いっこだってもってないよ?」

パチリ。
今日始めてしっかりと視線があう。
黄瀬くんは話す時相手の目の下らへんを見る癖がある。

「もってるよ」

「へ?」

「俺がほしいもん、全部もってる。」


例えば周りからの信頼感、ひとりの時間の過ごし方、異性の友情。

いいよね、羨ましいな、君が欲しいな。


「ごめんね、あなたにわたしの持ち物はあげれないわ。」





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