◎氷室さんと従兄弟同士2


「昨日はおそくまで部活があって…宿題やってないんだ。先生に怒られちゃうかな」

綺麗な眉毛が哀しげに下がり、薄っすらと微笑みを浮かべる。そう、たったそうするだけで、5分後にはノートに宿題が完コピされているのだろう。

はぁ。
重たいため息は、タツヤに夢中なクラスメイトは誰一人として気づかれない。

今日もこの学校は、…いや世界はこの男にだけ特別に優しい。





「どーしてみんなタツヤを甘やかすかな…」

クラスのみんながベタベタに特別待遇するせいで、彼はまるで玉座に座った王子様。キラキラの王冠を被りながら儚げに笑って手を振って、キャラじゃないな…なんて好感度あげるセリフしか言わないタツヤが想像出来る。どうせわたしは、最下層でかしづくメイドよ!

「アレくらいで王子様がご褒美に笑ってくれるんなら安いもんよ」

「いいじゃない、目の保養で存在するだけで価値があるんだから!」


みんなのアホんだらー!
騙されてる。世の中はみんな騙されてる…!わたしには群がる子羊を片っ端から品定めしているサタンに見えるわ!そう生き血を啜るサタンよ!


「誰かサタンだって?」

「ヒィッ」


ガタガタタン
なんとか椅子の上でバランスを保ったわたしの背後にサタンが…!

「いろはは酷いな…毎朝礼拝に参加する俺にサタンだなんて…」

現代のサタンは賛美歌だってきっと歌うに違いない。賛美歌ひとつで身を隠せるなら安いもんだなって、鼻高々に合唱するんだわ、絶対。

「じゃぁ何?王子様?天使様?そう言って欲しいのかしら?」

はんっと鼻で笑うわたしに、サタンはあんたよという横槍が入る。黙って!

「バスケットプレイヤー以外になるつもりはないよ。」
「どうだか!」


前に向き直り作業に戻る。何を隠そう宿題をやってないのはわたし!サタンにもエンジェルにもなれない人間のわたしはこうしてコツコツ宿題をやらなきゃいけないのよ!


あと5分で始業チャイム。わたしの作業ももう一息だというのに、背後でわたしの髪をあみあみあみあみあみあみ…

「うっとおしいんだけど?!」
「じっとしてて」

はいはいそうですか、じっとしててですか。勝手に始めたのはソッチだろが!


「氷室くん器用〜〜」
「いいなぁやってほしぃ」

友人の甘ったるい対イケメン用の声帯で発せられたセリフに身震いする。こいつらハイエナの如く目をギラつかせやがって…!彼氏どうした。

「な、なにやってんの?」

背後が煩わしくてとうとうシャーペンを机に置く。代わりに手鏡を取り出して頭部を写そうとするも、正面からは正しく理解出来ない。

「お手本のような編み込みよ編み込み!」
「あんたデートする時やってもらいなさい!」

手で触って確認するが、よくわからん。どうなってんの。

ピロリーン
カシャカシャ

「ほら!」

すいっと差し出されたアイフォンの画面に映ってるザ編み込みは、まだ編んでる途中らしく、タツヤの手が映ってる。

「ど、どこで覚えたの…?」

わたし編み込み出来ないんだけどという言葉はプライドにより寸前のとこで飲み込んで、無駄な器用さを発揮させるタツヤに問いかける。

「アツシが…部活の後輩が編み込みされて遊ばれてて、その時教えてもらったんだよ」

きっとまた無駄に犠牲者を増やしてきたんだろう。教えてくれる?なんて甘い囁きに後輩ちゃんの目がハートになっているのが想像出来た。アーメン


「丁度いい実験材料だったよ」
「わたしはモルモットか!」

はいおしまいと言われ、軽く頭部を触るが相当しっかり編み込まれているのか、ちょっとやそっとじゃ取れそうにない感触だ。手邪魔と言われおとなしく引っ込めると、また写真をパシャパシャ撮っている。


「ところでいろは…ちゃんとトリートメントしてる?」
「失礼なこと言うな!」


どうせあんたのサラツヤキューティクルヘアに比べたらパッサパサよ!一発鳩尾にいれてやろうかと思ったがチャイムが鳴る。くそっ


そしてこの髪型のせいで、一日中背後からの視線が絶えなかった。






陽線なう@lovelllly 10分前
先輩の髪型がすごいことになってたなう! 画像








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