◎速達で!!(巻島)


しまった、と思った時には既に膝が廊下についていた。体調の落ち着かなさに嫌な予感はしていたが、やっぱり貧血を起こしていた。どうしようもない吐き気と目眩に自分で自分の体を支えることが出来ない。止まらない冷や汗がさーっと駆け落ちるのを聞いていると、控えめに声をかけられた。

「お、オイ。大丈夫か。気分ワリーのかよ」

男の人だ。足元が制服じゃなくて黄色い長ジャー。声が凄く焦っているなという印象を受けながら必死で頷く。

「脱水?いや貧血か?とりあえずコレ飲めっショ。」

完全に壁にもたれかかって俯いている私の肩を軽く支えてくれると、ペットボトルにストローがささっていて口に咥えさせられる。随分と気が効いているなと考えながらストローを吸うと、冷えてはいないがスポーツ飲料の甘さが喉を伝う。体内に水分が入った事よりも、誰かに支えてもらってる安心感でほっとする。

「ありがとうございます、すみません。」
「いや気にすんなショ。えーと、じゃぁ保健室にでも行くか?」

私に声をかけてくれたのは隣のクラスの同級生だった。俯いていた顔を上げると、目立つ髪色が視界に入る。緑色の髪の毛に手足の長いことで有名な'マキシマ'くん。去年も今年も別々のクラスだったから話したことなんて今まで一度もなかったし、近寄り難いイメージだったけれど、困っている他人に手助けをするなんて印象が随分と変わった。あまり笑ったり喋ったりするのを、見たことがなかったせいかもしれないけれど。

「うん。でもまだ動けそうにないから、もうちょっとしたら行こうかな。」

水分を飲んだとはいえまだ視界はグラグラする。急な暑さの振り返しと生理前のダブルコンボがきたらしい。

「流石に置いてけないショ。えーっと松岡、揺れるけど背中乗せてく。」

私の名前知っているんだなと浸る暇もなく提案された事柄にビックリして限界まで目が開く。要するにおんぶってことですか、巻島くん…!

「え?いやいやいいよ!本当にこれ以上は…申し訳ないし、私重いし…」

自分で自分を重いと申告するのはどうも気恥ずかしくてしりすぼみになる。
巻島くん、いかにも細いから私をおんぶして歩くなんてぜっったい無理。持ち上げることすら困難で倒れられたりしたら一生もののトラウマ決定。大丈夫だと緩く手を振るが、顔は完全に強張ってるはず。

そんな私に対して、むっとした表情をする巻島くん。長い脚を折ってしゃがんでいる様子はお世辞にも柄がいいとは言えないけれど、泣きぼくろを見つけて視線が釘付けになる。けれど、髪の隙間から覗く眉がいっそう寄っているし、色っぽい口元はへの字だ。

「まさかオレに力なさそうだから、どうせ持ち上がらないとか思ってるショ?」

首を横にブンブンふる。いや、確かに細い手足とは思ったけれど、決して力がないとかそんな男の子の沽券に関わる様なこと…お、思ってないし?とは声に出せず、無駄に口を金魚の如くパクパクしていると、腕を取られこちらに背中を向けた巻島くんの肩に乗せられる。ほ、本気なの…?

「無理矢理背負われたくなければ大人しく乗れ。」
「ラ、ラジャ〜」

抵抗する元気などあるはずもなく、殆ど抱えられる様におぶわれた。同級生におぶわれるなんて人生初めてだし、いつもより高い視界と体温と不安定さと…とにかく邪魔にならないように、なるべく動かない様に、重さ軽減されますようにと考えていると身体が強張る。叫び出したいくらいのパニックが一周回って冷静さが勝ってくる。抱えられる様におぶられた為か、自分の肘下ががっつり巻島くんの肩より前にいっているせいで密着度が凄い。

とにかく、急に体重が軽くなるとかそういう魔法!!早急に誰か私にかけて!





その魔法、速達でお願いします!





「巻島くん何部だっけ」
「チャリ部」
「(腕の筋肉が計り知れない…)」
「(また余計な事考えてるショ…)」




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