1:マキちゃん!


「巻ちゃん!」
「マキちゃん!」

「巻ちゃん?」
「マキちゃん!?」

「・・・さっきからうるさいショ」


電話越しですら煩わしいというのに、実際目の前に現れた時のやかましさときたらセミ以上だ。ミンミンと力いっぱい鳴いているセミにすら負けない声量は、このかまってちゃん二人組から矢継ぎ早に繰り出される。もっともその’かまってちゃん’の二人がかまって欲しいのは緑色の髪をなびかせた巻島限定であるが。

「巻ちゃん、今日こそは決着をつけるのだ!さぁ登ろう!今すぐ登ろう!」
「マキちゃん、今日こそは私とサイクリングだよね?あっ自転車貸して?」

「体調は万全だろうな?さては暑いからとまたアイスばかり食べているのか?」
「サイクリングの帰りに、おいしいジェラート屋さんに行こう!私ソーダ味!」

「この夏最初のヒルクライムで山岳をとるのはこの東堂!全くもって負ける気はしないな!巻ちゃんだってそうだろう?」
「でもお弁当作ってピクニックもいいと思わない?山頂で一緒にお弁当食べようよ!」


「・・・・・・・・・・・」

巻島自身、自分が協調性に富んでいるとは思わないものの、こうも同じ空間にいて全く違う計画で話しを進められる人間は世界広しと云えども希少種に違いないと思わずにはいられない。部活の無い休日の早朝から無計画でいきなりやってきた(昨夜電話一本寄越してきただけマシなのか)この二人は、各々プランが出来上がっているのだろう。


「まてまて、前回は海に行きたいという希望を通してやったではないか?ならば今回はこちらの希望を通させてもらうよ!」
「結局自転車で向かう事になって、私を途中で置いてったよね?ねぇ覚えてる?ねえ?途中で山道登りだしてヒルクライム始めてたよね?」

「何を言っているんだ!ちゃんと待ち合わせ通り、山下で合流したではないか!置いていってはいないだろう」
「私山登れないから、ひとりで走ったんだよ?しかも海で一番楽しんでたの尽八くんだよね?」

「・・・・・あのヨ。せめて計画してからこいよ」


この二人の行動力はすさまじいものがある。が猪突猛進、まっすぐ全速力でこちらに向かってくるものだから、巻き込まれる側としてはたまったものではなかった。ただでさえ暑いのに、二人が加わるとさらに気温が上昇する。

「計画はしてあるのだよ!俺と巻ちゃんでヒルクライム!」
「私だって仲間にいれてよ!いっつもロード!バイク!ヒルクライム!今日は休日なんだよ?」

「もうどっちもやればいいショ」


毎度毎度突然現れるこの二人の滞在を許し、そしてなんだかんだと計画に付き合ってしまうのがオチだ。今更ここで巻島一人あがいたところで状況に変わりはない。ならばいっそ流れに身をまかせてしまうのが最良である。抵抗するだけ無駄。

「ならば早急に動かねばならんな!巻ちゃん、本当にそれでいいのだな?」
「キッチン借りてもいいかな?マキちゃん何が食べたい?」

それでも、二人が巻島の意にそぐわない計画を推し進めた事は一度もない。最後の最後は巻島に決断を委ねようとしてくる。どうせ二人がいなきゃ、走りに行くかグラビアでも見るか、そんな選択肢しかもっていないのだ。それなのに、最初からこの二人は三人で計画をたてるつもりで巻島を遊びに誘っている。そして一日の予定は巻島に委ねられている。


「いいもなにもどうせそうなるんショ。」

さっそくとばかりに東堂はロードレーサーを調整する為外へ、あんりはキッチンへと向かう。巻島も自分のロードレーサーの調整の前にとりあえずあんりのクロスバイクを準備しようと重たい腰を椅子からあげた。外は梅雨明け一番の暑さだ。


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