◎さすさす
「た、ただいま・・・」
腹痛の限界でなんとか自宅まで持ちこたえた気力が、玄関開けた途端ほっとしたように崩れていった。途中から痛すぎて何度か座り込みたくなったけど、一度休んだらもう立てない。そう思って脚に鞭打って強引に帰宅したけれど、今すぐ目を瞑って意識とばしたい。
「おかえり…っておい、大丈夫か、どうしたいろは」
荷物もそこそこに玄関でにうずくまって壁にもたれかかるわたしに花宮くんが慌てた様子で駆け寄ってくる。背中をさすってくれる手の温度が心地よくて、それでもお腹が痛くて目尻がじわっとする。
「…おまえ、薬飲まなかっただろ。ったく何やってんだよ」
まさかこんなに痛くなるなんて思わなかったんだもん、と言い訳すればまた心配するような声で怒られると思って黙っとく。余計なことは言わないに限る。
もう一歩も動けないわたしの身体を支えるように花宮くんが真正面から受け止めてくれながら、靴を脱がしてくれる。あまりの痛みに呻きながら、花宮くんの胸元のカーディガンをぎゅっと握る。おでこをぐりぐりして痛みを紛らわそうとしたら、今度は腰の辺りを撫でてくれた。ちょっと波ひいてきたかも。
荷物はそのままにほとんど支えてもらいながら寝室に移動。痛くて痛くて、枕に顔うずめるように身体を丸める。
ちょっとまってろ、と声をかけた花宮くんがわたしの部屋からリビングに向かった。
また痛くなってきた気がしてきて、こればっかりは女の子として生まれてきたことを恨まざるをえない。
特にわたしは、月ごとに波があるものの決まって整理痛がひどい。頭とか腰にくるひともいるみたいだけれど、わたしは下腹部が痛くてしかたなかった。
「軽く食べて薬飲んで、寝とけ」
リビングから戻ってきた花宮くんはトレーの上に水の入ったコップ、薬、それと一口サイズの塩おにぎりをお皿にのせて持ってきてくれた。
文句いいつつも、あまり腹痛を経験したことのない花宮くんからしてみれば、動けないほど痛みに呻くわたしを内心、心底心配しているのだと思う。
そういえば高校生の時に、顔を真っ青にしてストバスに遊びに来たわたしを見た花宮くんに、何があったと詰め寄られた記憶がある。女の子同士なら、生理だから誰か薬もってない?くらいなんてことなく言えるけど、まさか当時、好きな男の子に生理でお腹がしぬほど痛いなんて言えるはずもなく、違う意味でさらに顔を真っ青にした時があった。
途中、我慢の限界で盛り上がる輪をぬけて隅でこっそりお腹抱えてたら、どうやら気づいてくれた花宮くんがそのまま自宅まで送ってくれた時は、緊張と嬉しさで役得だーと厳禁にも思ってしまった。
なるべく早め早めの薬の服用を心がけてはいるものの、完全に周期がばれ始めた頃には、ちょっとでもお腹を抑えると薬飲んだのかと聞いてくるようになった。
飲んでも必ず効くわけじゃないと説明すると、訝しげな顔をして黙ってさすってくれる花宮くんに何度惚れなおしたことか・・・
小さなおにぎりを食べ、薬を飲んだわたしは横になると、再び腰をさすってくれる花宮くん。優しい。
一緒に横になってと調子のったらむりやり目閉じさせられた。寝ろってことですね。
生理なんて大嫌いだけど、でも花宮くんが看病してくれるなら、やっぱり女の子に生まれてきてよかった。
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