◎てくてく


なんとなく気に入ってる洋楽を流しながら支度する朝とか、
ひとりでゆっくりカフェオレを飲む昼下がりとか、
深夜に入るひんやりとした静かなシャワーとか。

マイペースを保てるひとりの時間が堪らなく幸福だなと感じていたのに。それすらまぁいいかと思えて同棲しちゃうのだから、つくづく恋愛って妥協の連続だ。


「花宮くんって妥協した事ある?」

買い物帰り。日が大分落ちた紺色の星空を眺めながら、ゆっくり帰路につく。車は楽チンだけど手が繋げないから、ちょっとそこまで…くらいなら歩きたい。

「さっき。車で行こうとしたら無理矢理歩かされた。」

「花宮くんの運動不足解消だよ?」

「おまえが運動不足なだけだろ」

右手で花宮くんの右の横っ腹ぎゅっとしたらひっと声があがる。じろりと睨まれたけど全然怖くなーい。花宮くんの左手がスーパーで買った食材とかお菓子が詰め込まれた重たいバックで塞がれているのを狙って、わたしの右手は花宮くんにちょっかいをかける。

けれどそこは花宮くん。繋いでいる手をぐいっと上に挙げさせられて、わたしの左の横っ腹が引き伸ばされる。や、やめて!

「降参します!」

ひーと小さく悲鳴を漏らせば、引き伸ばされていた横っ腹は解放された。

「もしかして…私と付き合ってくれた事が妥協、とか?」

チラッと横目で伺うと、今度は本気度の高いジロリとした視線で返された。怖っ

「確かに、ウンザリするほどしつこかったな。」
「ウッ…」

何も言い返せない。言葉に詰まる。私だって、学生服が世界で一番最強の戦闘服だと信じていたあの頃は、足りない部分を若さのパワーで補っていた自覚はある。でもそうでもしなきゃ、この猫を数百匹被ってる似非優等生は私の存在すら認知してくれなかったはず。


「ハァ…いちいち落ち込むなウゼェ」

「おっ落ち込んでない!」

花宮くんの言葉にいちいちグサグサ来てたら身が持たないのは百も承知。過去の私に出会えるものなら、アプローチの戦略を練り直せって頬ひっぱたいてやりたい。

「だいたい、妥協で一緒に生活出来るほど、こっちはオヒトヨシじゃねぇよ、バーカ」


前言撤回。やっぱり花宮くん、だいすき。



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