◎ショコラ


「えっまさか毎年買ったチョコをあげてるの?」

せっかく綺麗に巻きつけたトマトスパゲティがフォークからするする解けるのにも気づかず、レオちゃんは両目を見開いて驚いた声をあげる。静かに落下するスパゲティのソースが跳ねて、レオちゃんのブラウスに付着していないかハラハラしながら、中学生の時には手作りしたよとおざなりに答えるが、どうやら跳ねなかったようだ。レオちゃんが着ている服はどれも新作だったりビンテージ物だったりするから、ふらっと入ったカフェレストランの1000円のランチで傷物になったら大変である。

「中学生って・・・それ何年前よ。まさかそれ以来全部市販なの?」
「だって、花宮くんって潔癖っぽいかなって思ってたし。手作りとか捨てられそうだったんだもん。」

それに一緒に暮らし初めてからは手作りなんて、何の新鮮味もなくなってしまったから、毎年チョコレート専門店を調査しては、カカオ濃度のたかーいチョコレートを贈ってる。中学生の時に贈った手作りブラウニーだって、花宮くんの口に入ったかどうか、未だに聞けてない。絶対食べてないと思うんだよね。

「今年はどうしたのよ?」
「大奮発したの」

表参道に本店を構える老舗洋菓子店のフォンダンショコラ(バレンタイン限定ギフト)を既に予約済みなのである。この後レオちゃんとバイバイしたら取りに行く予定だ。

「それって自分も食べる気満々ね」

はぁと溜息をつくレオちゃんには、そんなOLのバレンタインみたいな事情やめて頂戴と留めを食らう。言われてみれば予約をしに行った時も、綺麗な格好をしたオフィスレディがちらちらとお茶していたような…。

「ところで誘った私が言うのもどうかと思うのだけど、バレンタイの真昼間からまこちゃんとデートとかしなくて本当によかったの?」
「まこちゃん今日は、ゼミの特別授業が入っちゃってるの。だから夜まで帰ってこないから全然平気。」










レオちゃんと別れて、洋菓子店に頼んでいたフォンダンショコラを取りに行き、美味しそうな香りのする店から出て帰路についてもさっきのやりとりがモヤモヤと頭を占めている。そんなに、恋人には手作りチョコレートをあげなければいけないのだろうか?とは言っても、今更お菓子作りなんて、夕飯作りをしないといけない身としては時間もないし、道具もない。無計画だったかな〜とスーパーの食材をカゴにいれながら、チョコレート棚にチョコレートレシピを紹介する可愛らしいポップが並んでいるのを横目で見る。

「あ!」

これだ!急いで板チョコを一枚引っ掴むと、足早にレジへと向かった。







カチャリと鍵が回る音が聞こえて、急いで玄関に向かう。

「おかえりなさ〜い!」
「…ただいま」

いつもより気合いバリバリの私に若干引き気味の花宮くんは、私の手に握られたままのしゃもじを見てため息を零しながら訝しんでいる表情を向けてくる。

「浮気チェーック!」

くんくんと首元に顔を寄せて匂いを確認するが、うん、多分、大丈夫。いつも通りの花宮くんの匂いだね!

「浮気を発見した暁には、寒空の下だろうと海に放り込んじゃうかもだけど、ごめんね?」
「くだんねーこと言ってねーで、靴脱がせろ。飯出来てんだろ?」

全然くだらなくないんだけど!?と反論しながらもキッチンに戻って作業を再開する。荷物を置いて戻ってきて席についた花宮くんの前に、ハートの形のお皿にのっけたハートの形に盛ったガーリックライスを置く。直接的すぎるラブリーな見た目に、この後何がくるのか完全に疑った目をした花宮くんは黙っている。

「ハッピーバレンタイン、だね。花宮くん」
「あ、ああ…」

手に持ったお鍋にオタマを沈め、中身を救って、ハートの形のライスを囲むようにカレーのルーをゆっくり流しこむと、あからさまにほっとした空気を出してくる。

「…普通だ。」

失礼すぎる花宮くんをさらっと無視して、お鍋を机に置き、自分の分も同じように準備してから席につく。いただきますと手を合わせてから、カレーを口に運ぶ花宮くんのタイミングを見計らって。

「今日の隠し味は、花宮くんの大好きなビターチョコレートです」

瞬間、ごくんと飲み込んだ花宮くんがゲホゲホとむせる。あまりに苦しそうに咳き込むから、背中をさすりにいくと若干涙目になっている。

「そんなにびっくりした!?」
「よそった時に言えよ。」

でも美味しいでしょう?と顔を覗きこむと、味わう暇なんかなかっただろと言われた。ここはうんって言えばいいの。

「食後のデザートはフォンダンショコラもあるからね!」
「…ソレ、どうせおまえが食いたかった店ンだろーが」

なんでバレたの!?





HAPPY
HAPPY
VALENTINE DAY★





「ところで私が中学生の時に贈ったブラウニーだけど、あれって食べた?」
「・・・・・・・・・」
「ちょっと!?」



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